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官僚たちの劣化を問う 年のはじめに考える

2022年1月4日 05時00分 (1月4日 05時00分更新)
 「官僚は劣化しています」。昨年、最も衝撃的だったひと言です。オンラインによる弊紙主催「ニュース深掘り講座」に聞き手として出演した際、講師の前川喜平氏が発した言葉です。元文部科学事務次官の発言であり、あまりの説得力にたじろぎました。
 一九九〇年代、財務省(旧大蔵省)を担当しました。「大物事務次官」と言われた大蔵省OBと話をした時のことです。彼は現職次官を「嫌いだった。部屋にくるのも嫌だった」と酷評しました。
 ところがその次官を出世させたのもこのOBでした。「国に必要な人物だから」が理由でした。優秀な人物は公正に評価する。当たり前の人事が行われていた時代だったのかもしれません。
 当時を思い返すと今、官僚の劣化が進んでいるのなら原因は人事にあるのではとの疑問が浮かびます。優秀な人物が相応のポストに就けなくなったのではないか。

原因は内閣人事局に?

 内閣人事局。二〇一四年、安倍政権が設置した組織です。霞が関=写真=の各省庁をめぐっては、省益優先の姿勢や縦割り行政の弊害が指摘されてきました。官僚の人事を官邸が一元管理することで、政治主導を実現するのが内閣人事局の最大の目的です。
 だがこの組織の出現が人事を振りかざした過度な官邸主導を生み、忖度(そんたく)の温床となって官僚の劣化につながった。そんな批判が相次ぐようになりました。
 この批判には共感せざるを得ない。だが内閣人事局だけがすべての元凶なのかとも思います。
 各省庁の省益優先の姿勢は予算編成をみても依然顕著です。具体的な金額を明示しない概算段階での事項要求や国会でのチェックの緩い補正を使い分け、より多くの予算獲得を目指します。コロナ禍対策の名の下に実際は関係の薄い予算も織り交ぜて要求します。
 昨年十一月、政府が海外からの入国禁止を打ち出した際、国土交通省が独断で帰国便の予約のない日本人の入国禁止を航空会社に要請しました。これでは多くの日本人の出張者や海外在住者が母国に戻れなくなります。
 救援機を出すならともかく帰国禁止はあり得ない。措置は撤回されましたが、この事態は政府内で意思統一が欠けていたことが原因と考えられています。背景にあるのは依然残る縦割りの弊害です。
 この間、一部の航空会社では予約がない日本人を何とか帰国させる算段を練っていたといいます。実にまともな感覚です。この一連の経緯を踏まえ、前川氏のいう「劣化」は「やはり本当か」と暗い気分になりました。
 感染が広がる中での厚生労働省職員の宴会、持続化給付金を悪用した経済産業省職員の詐欺事件、国交省の統計書き換え、忘れてはならない森友問題の公文書改ざんをめぐる財務省職員の非業の死。

国民の役に立ちたい

 「劣化」という言葉でさえ不十分な、官僚組織の「病根」を感じる問題は次々と起きています。
 政権と官僚機構の間には、指揮者とオーケストラの関係に似た構造があると思います。大指揮者、カラヤンがベルリン・フィルを追われた最大の原因はクラリネット奏者の採用をめぐる団員との確執でした。採用に固執したカラヤンと団員の関係は悪化します。偉大な指揮者でさえ意思の疎通を欠けば躓(つまず)いてしまうのです。
 ただ、その後カラヤンはウィーン・フィルとの関係を深め、至高の名演を繰り広げます。芸術とは無関係な争いから解放されたカラヤンが真に求めていた音楽がそこにあったと感じています。
 官僚たちは何を求めてその職を選んだのか。一人一人表現は違っていても「国民の役に立ちたい」という初心は持っていたはずです。その思いは内閣人事局というフィルターを通しただけで霞(かす)んでしまうのでしょうか。
 コロナ禍対策にしても官僚組織抜きには成り立ちません。代わりはいないのです。官僚は大きな仕事ができます。国のグランドデザインを作成できるのです。もちろん官僚を使いこなすのは国民の負託を受けた政権であり政治家です。官僚を統治する政治家、それを受け止める官僚たち。その間に生じたいびつな関係や率直な議論ができない空気感が、さまざまな問題の元凶だと考えます。
 民主主義を動かす「基本ソフト(OS)」ともいうべき政治家と官僚のあり方を深掘りする一年にしたいと強く思っています。 

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