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ホームドアの整備費用、運賃上乗せOKに 中部の鉄道各社も関心

2021年12月12日 05時00分 (12月12日 16時58分更新)
12月から運用が始まった東海道線金山駅のホームドア=JR東海提供

12月から運用が始まった東海道線金山駅のホームドア=JR東海提供

  • 12月から運用が始まった東海道線金山駅のホームドア=JR東海提供
  • 地下鉄のホームから転落した経験を語る視覚障害者の女性。腕には傷痕が残る=名古屋市守山区で
 鉄道駅で乗客のホーム転落を防ぐ切り札となる「ホームドア」。国は二〇二五年度末までに全国三千カ所のホームに設ける目標を掲げるが、課題はコストだ。そこで国は、東京、大阪、名古屋の三大都市圏を対象に、ホームドアやエレベーターなど鉄道駅をバリアフリー化する費用を、運賃に上乗せできる新制度の導入を打ち出した。二三年春ごろの運用を目指し、上乗せ分は一回の乗車で十円以下を想定。中部地方の鉄道各社も関心を寄せている。
 一九年度末でホームドアがあるホームは全国千九百五十三カ所。国土交通省によると一駅当たり数億〜十数億円の費用がかかり、担当者は「新制度でペースを上げないと目標の三千カ所は達成できない」と話す。
 現在はバリアフリー施設の整備に対する国と自治体の補助制度はあるが、運賃への上乗せはできない。新制度で可能にするが、通学定期は免除するなど家計への配慮も求める。年内に関連省令を改正し、年明けから鉄道会社の届け出を受け付ける。届け出内容は整備計画や上乗せ金額、対象駅など。進捗(しんちょく)状況を毎年公表する必要もある。
 新制度について、JR東海は「ホームドアや段差解消は主要な課題。国交省と調整しながら検討したい」(広報)と関心を寄せる。名鉄、近鉄も「対応を検討したい」(広報)とする。
 中部地方では鉄道会社や路線で整備の差が大きい。あおなみ線や東部丘陵線リニモは全駅で完備。一方、JR東海は新幹線主要駅にはあるが、在来線は今年初めて金山駅の二カ所に設けたばかり。二三〜二六年度に名古屋駅と刈谷駅の計六カ所に設ける予定だ。名鉄は中部国際空港駅と上飯田駅の計三カ所にあり、金山駅で検討中。近鉄は中部地区にはなく、名古屋駅の整備を優先する方針だ。
 コスト面の他にも課題はある。一つの間口で四百五十〜五百キロ程度とされるホームドアの重さにホームが耐えられるか、ホームが狭くならないか。車両の長さ、ドアの位置や数が異なると乗降位置がそろわない。名鉄広報は「特急は二ドア、通勤電車は三ドア。車両の種類も多い」と悩む。
 車両のドアの位置が同じ名古屋市営地下鉄は鶴舞線以外で完備。鶴舞線は相互直通運転の名鉄車両とドアの位置がずれるが「工夫したい」(市担当者)と二六年のアジア競技大会までに完備する計画だ。JR東海は間口の広いタイプで対応する方針。近鉄も独自のホームドアを研究中という。

あの時付いていれば… 転落の視覚障害者

 「あの時、ホームドアが付いていたら…と思う」
 名古屋市守山区の視覚障害者の女性(69)は十年前、市営地下鉄本郷駅のホームから転落した。徐々に視力が落ちていく難病「網膜色素変性症」。当時はぼんやり見える程度だった。階段を上りながら、駅のアナウンスを聞いて「電車が来ている」と勘違い。西日が差し込んでまぶしく、周囲が見えない中、電車に乗ろうとホームから足を踏み出し、線路に落ちた。
 その後に来た電車が三回、腰にぶつかった衝撃は覚えている。腰椎や肋骨(ろっこつ)を折り、肺挫傷もあり、三カ月入院。今も前かがみになると腰に痛みが走り、上腕には六センチ程度の傷痕が残る。
 事故後、一人で電車に乗れなくなった。女性は「一歩間違ったら死んでいた。ホームドアのない駅の利用は危険と隣り合わせ。スピード感を持って整備してほしい」と訴える。本郷駅には二〇一五年度、ホームドアが設置された。
 転落は視覚障害者だけの問題ではない。国交省データによると、ホームからの転落件数は減少傾向だが、新型コロナウイルス禍で急減した二〇年度でも千三百七十件。うち視覚障害者は約3%だった。要因の内訳では毎年、「酔客」が過半数を占める。
 (今村節)

全ての人にメリットある

 鉄道の安全対策に詳しい関西大の安部誠治教授(交通政策論)の話 ホームドアは安全面で効果が非常に高いが、構造的、財政的な課題がある。新制度はバリアフリー化を進める効果が高いと思う。鉄道会社と乗客の負担の線引きは議論が分かれる。ただ近年、人口減などで輸送量の伸びが停滞し、鉄道会社が財政的な課題を抱える中、新制度はあり得る提案だ。家計負担に配慮しつつ、国民の合意をどう得るかが非常に大事。ホームドアは視覚障害者に限らず子ども連れや高齢者も含め、全ての人にメリットがある。そうした視点で考えるべきだ。

 ホームドア 転落防止のためホームに設けた壁や柵。車両ドアと連動して開閉する。天井まで完全に遮るタイプや腰高の柵などがある。日本視覚障害者団体連合のサイトによると、1981年に開業した「神戸新交通ポートアイランド線」が初めて。国交省によると2019年度末現在、全国9465駅のホーム1万9951カ所のうち、858駅の1953カ所に設置。コストや構造上の課題に対応するため、昇降ロープ式、マルチドア対応、軽量型ホームドア、大開口ホーム柵など、多様な新型が登場している。


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