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「青」テーマ 収蔵品に新たな光 深い精神性へと誘う色

2021年11月27日 05時00分 (11月27日 11時57分更新)

◇金沢21美 企画展

 金沢21世紀美術館のイメージカラーと言えば、透明なガラスで覆われたホワイトキューブの白、あるいはロゴに使われているオレンジだろうか。その21美で青をテーマにしたコレクション展「BLUE」(ブルー)が開かれている。来年五月まで前後期で入れ替えながら十五人の作家を紹介する。企画した横山由季子学芸員は「収蔵作品に青色の作品が多いと感じていた」と言う。現代美術にとって「青」とはどんな色なのか−(松岡等)

【上】イー・イラン 「オラン・ブサール・シリーズ 私掠船の帝国と彼らの勇ましい冒険」(2010年) © YeeI−Lann photo: KIOKU Keizo【中】塚田美登里 「Colony」(2002年) © TSUKADA Midori photo: SAIKI Taku【下】石田尚志 「絵と窓の間」(2018年)[映像] 4Kビデオ(サイレント)4分33秒/ 16㎜フィルム(サイレント) 2分16秒 [絵画]アクリル絵具、水彩、チョーク、キャンバス © Takashi Ishida,Courtes


 展示は「青の時間」と名付けた部屋から始まる。21美で二〇一〇年に舟越桂と大規模な二人展を開いたベルギーの作家ヤン・ファーブルが、闇が光へと移行する静寂の時をそう呼んだことから。前期は舟越の青い衣装をまとった半身の人物像「冬にふれる」を展示する。タイトルがこれからの季節にぴったりだ。
 続く「青の奥行き」と題した展示室では、マレーシアの作家イー・イランが、東南アジアで伝統的なろうけつ染めによる絵画的な作品を紹介する。青い海に潜む因習的な権力に批判の目を向けている。
 自然光が注ぐ「光庭」には、富山市在住のガラス作家塚田美登里の作品二点が置かれた。透明なガラスの中に熱によって青く溶けた銅箔(はく)を閉じ込める技法による作品。波長が短く拡散する青色が乱反射し、移り変わる光によって表情を変える。
 今回の展示で、唯一の招聘(しょうへい)作家が石田尚志。映像インスタレーション作品「絵と窓の間」は、窓から差し込む光の中で描かれる青と白のドローイングを、一枚一枚コマ撮りしたアニメーション映像などで構成。映画を発明したリュミエール兄弟の時代に光源が明滅していたことを踏まえ、闇と青の光を体感する空間を出現させた。石田は後期展示に向けて公開制作も行う予定。
 最後の部屋では、二人の写真家によるシリーズ作品が並ぶ。東日本大震災前から東北に移住し、土地と人々に迫ろうとした志賀理江子の「螺旋(らせん)海岸」シリーズから収蔵する十枚を展示。強いストロボによる青白い光をそのまま被写体に定着させたような写真は、現実を写していながら異界を思わせる。

【右上】舟越桂 「冬にふれる」(1996年) © FUNAKOSHI Katsura photo: NAKAMICHI Atsushi/Nacása&Partners【左上】志賀理江子 シリーズ「螺旋海岸」より「螺旋海岸36」(2010年) © SHIGA Lieko【下】ローズマリー・ラング 「フライト・リサーチ #5」(1999年) © Rosemary LAING


 一方、オーストラリアの作家ローズマリー・ラングの「フライト・リサーチ」シリーズの一枚は、真っ青な空を背景にウエディングドレスを着た女性がスカイダイビングしている様をとらえる。眼下は世界遺産でもあるブルー・マウンテンズ。広大なユーカリの林から油分が蒸発してもやがかかっている。「無垢(むく)の象徴でもある花嫁が空中に身を投げている。死の危険と隣り合わせの極限状態で、そこは生と死のあわいであり、自由の獲得でもあるかのよう」と横山学芸員。
 「BLUE」は、英国の映画監督デレク・ジャーマンが、エイズの末期にあって画面を青一色で覆った遺作のタイトルでもある。ジャーマンは「青は目に見える闇の色」と語ったという。生と死の間にあって深い精神性へと誘う色なのかもしれない。
 考えてみれば、21美で最も人を集めるレアンドロ・エルリッヒの「スイミング・プール」やアニッシュ・カプーアの「世界の起源」、ジェームズ・タレルの「ブルー・プラネット・スカイ」も青。展示は、これら恒久展示作品について見直す機会にもなっている。
 コロナ禍で、各美術館がコレクションをどう生かすかに腐心している。今回の展示は、絵画、彫刻、写真、映像、ガラスなど技法やメディア、作家の地域性などのバランスを考慮しながら、独自のテーマを設定し、作品に新たな意義づけをする試みでもある。
 会期中、これまで21美ではあまり行ってこなかった学芸員による作品解説を実施。アーティストによるトークや公開制作、「青の美術史」の著書のある小林康夫東京大名誉教授(表象文化論)による講演会も予定する。詳細は21美ホームページで。=敬称略

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