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動物の「疼痛」って、どう把握するの?【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

2021年11月19日 06時00分

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マイルCSで現役を引退するグランアレグリア

マイルCSで現役を引退するグランアレグリア

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 グランアレグリアがマイルCSで現役を引退すると発表された。一層、主役として注目を集めることになる。同馬は天皇賞・秋の後、右前蹄に痛みがあったとされ、接着装蹄によって蹄の保護を図っている。1週前、17日の追い切りを見る限り、特段の問題を抱えた段階は脱しているようだ。
 そこで“そもそも論”なのだが、動物が「痛がる」というのを、獣医師はどう判断しているのだろうか。人医が当たり前にできる、直接の「問診」という手段を獣医師は持ち得ない。
 「見れば分かる」と思われるかもしれない。確かに、熟練とまでいかずとも、一定の経験を積んだ厩舎人なら分かって当たり前。まず間違わない。犬や猫でも畜主が「うちの子、おなかを痛がるんです」と獣医師にかかることもある。
 畜主や馬の担当者への問診も重要な手掛かりだが、経験的推測だ。獣医師は科学的な手順、すなわち(合理性を前提に)ずぶの素人でも同じ判断ができる手順で「疼痛(とうつう)がある」と示す手段を持っておく必要がある。それが「見る」を超えた「診る」ということだ。
 例えば蹄の痛みであれば、多くは圧痛を示す。蹄底や蹄壁を指で押してみて、馬が忌避するような反応を示せば(我々人間が体感的に知っている「痛み」と本当に同じものかという哲学的な問いは別にして)、その部分に痛みおよびその原因があると推察できる。
 四肢の関節や筋肉の痛みで跛行(はこう、歩様に異常をきたしている状態)するケースでは、触診の類では完全に把握することが難しいことがある。エックス線で骨折でも見つかれば、痛みの程度や質をひとまず棚上げして、手術などで原因にアプローチすることも可能だが、見つからないこともしばしば。こうしたケースでは「診断麻酔」という手段がある。見当をつけた部分を局所麻酔して跛行が解消すれば、そこが痛がっている部位と特定できる。場所が絞れれば、詳しい原因検討もしやすい。
 馬に限らず、多くの動物は痛みを、人間よりかなり強く我慢する。特に草食動物は捕食者への弱みを見せまいと、そのように振る舞うと考えられている。そこを丁寧に拾ってケアするのは、担当厩舎人の経験の、そして科学的に裏付ける獣医師の、それぞれの技である。

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