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“盲目のロックピアニスト”香介がグランプリ獲得 盲学校の後輩・木村敬一のパラリンピック金メダルが与えた意外な刺激

2021年11月7日 11時46分

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香介(左)と木村敬一

香介(左)と木村敬一

 スマートフォンの画面を見ながら、思わずガッツポーズを繰り返してしまった。このコラムで今年4月に紹介した、盲目のロックピアニスト香介が6日に東京国際フォーラムで開催されたゴールドコンサートでグランプリを獲得。障がいを持つミュージシャンの登竜門とされるこの大会で、音楽活動開始から15年、36歳にして、ついに頂点に立った。
 「本番ではミスもなく演奏できたよ。審査員の湯川れい子さん(音楽評論家・作詞家)らから評価していただいた。本当にうれしい」
 ほどなく掛かってきた電話で、香介は興奮がまださめやらない感じだった。実はこの大会の3日前、一緒に酒を酌み交わした時に「いつになく緊張する」と何度も口にしていた。常にフラットな心で鍵盤とマイクに向かうのに珍しいなと思ったが、その理由はすぐに分かった。東京パラリンピックの競泳男子100メートルバタフライ(視覚障害S11)で金メダルを獲得した木村敬一の名前が、何度も出てきたからだ。
 木村は滋賀県立盲学校の6学年後輩。寄宿制の同学校では同じ屋根の下で寝起きをともにし、今も親交がある。香介がミュージシャンとしての独り立ちを目指して故郷の滋賀県を離れて上京した時期も、小学校を卒業した木村がパラリンピックを目指して東京都文京区の筑波大学附属盲学校(現筑波大学附属視覚特別支援学校)に入学した時と重なっている。
 そんな木村が4度目のパラリンピックでついに世界の頂点に立った9月3日の夜、香介はさぞかし喜んでいるかと思ったら、実際は違っていた。
 「敬一が金メダルを取ったことはうれしいし、ホッとしたよ。でも同時に、後輩の敬一がこんなに頑張っているのに、自分はまだそれほどミュージシャンとして売れていない。何か悔しくて…」
 病気のため2歳で全盲となった木村は、見えていた時の記憶がほとんどなく、人が泳いでいる姿を見たこともない。8歳で全盲となった香介は、その点でも自分は恵まれていると思っている。だからこそ、努力を重ねる木村に向けた応援ソング「永遠の扉」を2018年にリリースするなど、自分なりの後押しを続けてきた。
 その後輩が、どんどん遠くに離れていってしまう気がする―。焦る思いが、今回の大会前にこれまで味わったことのない緊張をもたらしていた。
 ゴールドコンサートにエントリーし、演奏した曲は「アナザー・スター」だった。今月21日にリリースするCD(10曲収録)のタイトルともなっていて、パラリンピックの車いす競技を主題としている。
 「この大会で“金メダル”を取ることが出来た。これで敬一に少しでも追い付くことができたかな」
 グランプリ獲得でこう話した香介に、私は言った。「おいおい、敬一君は世界で1番だよ。ジョニー(香介の愛称)はまだ日本じゃないか」
 「ははは、そうだよね。敬一は本当にすごいよ。あらためてそう思う。僕も、もっと頑張らなければ」香介の声が弾んでいた。
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまで中日ドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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