『手術明け』のグランアレグリア、喉の疾患では比較的”軽い”ものだった可能性が高い【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
2021年10月29日 06時00分
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
天皇賞・秋で「3強」の一角を形成するグランアレグリア。8月に喉の手術をしたという。「手術明け」というファクターは、取捨について、どのように加味するべきだろうか。
競走馬の喉の疾患は複数あるが、発生頻度が比較的大きいものが3つ。「喉頭片まひ」「軟口蓋背方変異(DDSP)」「喉頭蓋エントラップメント」だ。
喉頭片まひは、声帯の動きを制御する神経(反回神経)になんらかの問題が起きて、声帯が(程度の差はあれ)うまく開けられなくなる。声帯は本来、気流を妨げないように呼吸に合わせて開く。閉まったままではガス交換が不十分になる。手術対応する場合、閉まった声帯を開けたままの状態で側面に縫合する。
DDSPで問題になる軟口蓋は上あごの奥にある柔らかい部分。いわゆる「のどちんこ」周辺だ。これが奥にずれ、気道に乗っかるようにして気流を妨げる。手術は、ずれた軟口蓋を切るなどして整復する。
喉頭蓋エントラップメントで問題になる喉頭蓋は、気道と食道が交差する部分で、気道側についている「ふた」。声帯同様、呼吸のリズムに合わせて開いたり閉まったりする。病態はこれの形が関係している。
片面に色のついた折り紙でつくった舟をのりづけして形が固まっている状態をイメージしてほしい。通常、色のついた方が外に出ている。それ以上手を加えなければ、舟の形はそのまま安定だ。これに折り鶴の首を折るように、多少無理な力をかけると、裏返すことができる。本来、内側の白い部分が外に出る。これはこれで形としては安定する。本来の形とは対称形で固まり、喉頭蓋が本来の機能を果たせなくなる。
エントラップメントとは直訳すれば「わなにかかる」。術式は、そのわなを外してやればよい。具体的には鉗子(かんし)などで喉頭蓋を再び裏返し、本来の形に戻す。ほかの2病態と比べ、術式の馬体への侵襲度が一段低い。
グランアレグリアは「喉頭蓋エントラップメント」の症例という。ほか2病態より(やや科学的には乱暴な言い方ではあるが)手術の影響は“軽い”ものだった可能性が大きい。
【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
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