本文へ移動

「芯漆」技法で輪島塗 兄弟職人、下地使わず漆重ね塗り

2021年10月24日 05時00分 (10月24日 11時25分更新)
芯漆で作られたぐい飲みや阿修羅像(山崖松花堂提供)

芯漆で作られたぐい飲みや阿修羅像(山崖松花堂提供)

  • 芯漆で作られたぐい飲みや阿修羅像(山崖松花堂提供)
  • 作品の出来具合を確認する山崖宗陽さん(左)と松堂さん=輪島市輪島崎町の山崖松花堂で

「美術品として2000年先も残る宝に」

 輪島市の老舗塗師屋「山崖松花堂(やまぎししょうかどう)」は、下地を一切使わず、芯から細部、表面まで全て漆だけを塗り重ねて作る技法「芯漆(しんしつ)」を開発し、漆器の製作に取り組んでいる。木地などの表面に漆を塗り重ねる漆器と比べ、経年劣化しないのが特徴。多くの国産漆の蓄えがあって初めてできる技法。光の当たり具合によって見え方や色が異なる漆本来の性質も引き出し、唯一無二の「美術作品」として輪島塗の魅力発信にも一役買いたい考えだ。 (森本尚平)
 芯漆で作られたぐい飲みは、光の反射によってさまざまな輝きを見せ、さながら銀河を見ているよう。阿修羅像は一目では漆器と分からず、表情や装飾にいたるまで精巧に彫りや削りが施されている。木地を使った漆器は漆の層が一ミリほどだが、芯漆作品は一センチほどの厚みが出る部分もある。
 代表で十七代目、兄の山崖宗陽(やまぎしそうよう)さん(59)と弟の松堂(しょうどう)さん(55)によると、漆は樹脂の化石である琥珀(こはく)と同じ性質を持ち、熱や乾燥などに強く、防水や防腐性もある。一般的な漆器は内部の木地が傷むと割れたりはがれたりすることもあり、松堂さんは「一生懸命作っても何度も修理する必要がある。そこにずっと疑問を感じていた」と、半永久的に使える漆器の製作を考えた。
 二人は塗師屋になってから二十年以上、漆の研究を続け、最適な塗り方や道具の自作、塗りの回数の短縮など試行錯誤を繰り返してきた。芯漆では、発泡スチロールや粘土で作った型の表面に漆を塗り重ねる。表面を研いですりガラス状にすることで傷に漆が染み込み、厚みを増していく。その後、型を取り除きさらに何度も何度も塗り重ねる。製作期間は八年から、長くて二十年以上。塗りの回数も多い物で四百回を超える。一般的な漆器は漆を塗って乾かす工程が十回ほどのため、途方もない作業の繰り返しと年月がかかる。
 使う漆も全て国産とこだわる。現在日本で使われている漆は安価な中国産がほとんどだが、山崖松花堂では先代から国産漆の価値を認め、貯蓄を続けてきた。国産は主成分のウルシオール含有率が高く、中国産に比べ強く固まる。宗陽さんは「貯蓄がなかったらそもそも芯漆はできなかった。漆の持っている潜在能力を存分に引き出し、世界の人にその価値を知ってもらいたい」と意気込む。
 芯漆の織りなす美は、光の当たり方でも変わる。「あんどんの光、月明かり、太陽光。百種類の光があれば百種類の見え方がある」と松堂さん。何層も漆を重ねることで内部で光が複雑に反射、屈折し異なる色合いが現れる。年数がたてば徐々に透明感も増す。混ぜ合わせた顔料や砕いた鉱石も相まって、見る角度によって異なる輝きも見せる。
 宗陽さんは「漆は世界に誇れる文化。美術品として千年、二千年先も残る宝を作っていきたい」。松堂さんは「日本の伝統文化は捨てたもんじゃないと、世界中の人に芯漆の作品を見てほしい」と力を込める。長い年月をかけ約百点ほどの作品が集まり、新型コロナウイルスの感染状況を見ながら海外出展も検討している。

関連キーワード

おすすめ情報