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<Meet STEAM> セラミドなどの皮膚科学研究 宇都宮大バイオサイエンス教育研究センター特任教授・芋川玄爾さん

2021年10月17日 05時00分 (10月17日 05時00分更新)
芋川玄爾さん

芋川玄爾さん

  • 芋川玄爾さん
  • 1987年に芋川さんが描いた角層の構造。オレンジの部分がセラミド、青が水分
 赤ちゃんのようなきれいな肌には、多くの人があこがれるのでは? 宇都宮大バイオサイエンス教育研究センター特任教授の芋川玄爾さん(74)は、人々のより美しい肌のために皮膚科学研究を続けています。過去の大きな発見は、ひょんなトラブルから。「無限に続く」研究の面白さを教えてくれました。 (聞き手・北村希)
 −印象に残っている研究は。
 しみの仕組み、しわをつくる酵素などいろんな研究をしてきましたが、一番影響が大きかったのは花王で働いていた四十歳の頃に発見したセラミドの働きです。ある時、皮脂を溶出する液を肌に一分あて、皮脂量を調べる実験をしていると、一人の研究員が間違えて二十分放置し、肌が乾燥してしまいました。
 それまでの理論では、皮膚の中のアミノ酸が水分を抱え、保湿が持続される仕組み。でもこの時はアミノ酸が外に出ていないのに乾燥しました。調べると脂質の一つ、セラミドがたくさん出ていたのです。研究を進め、セラミドが角層の細胞間に存在し、水分を抱えている構造にたどり着きました。
 数年後、合成セラミドを含む基礎化粧品の商品化につながり、さらにアトピーの人はセラミドが減少していることも分かってきました。あのトラブルがなかったら今の僕は存在しなかった。今は、食べることでセラミドを内側から増やす物質の研究を進めています。アトピーの人にも希望を与えられるかもしれません。
 −研究の面白さは。
 研究とは「こうかも」と仮説を立て、検証することの繰り返し。予想が外れて失敗する方が圧倒的に多いけど、当たった時は興奮して夜も眠れませんよ。でも一つ明らかになると、それに付随して分からないことがもっとたくさん出てくる。研究は永遠。無限だから面白い。
 −ずばり、美肌とは。
 しみがなく、弾力のある若い皮膚です。年齢とともに皮膚の代謝は落ちるため、肌の老化を止めることはできない。でも遅らせることはできます。肌に一番悪いのは、老化の原因である活性酸素を作る紫外線(UV)。十代に浴びたUVによる損傷が蓄積して三十代からできるしみは、消えません。弾力も、UVの影響で、実は十八歳から下がり始めています。十代からのUV対策が、本当のアンチエイジングといえるでしょう。
 −理系に進んだのはなぜ。
 父の転勤で転校した高校がすでに化学の授業が終わっていて、僕は学ぶ機会がなかった。進路指導で化学の道は難しいと言われ、悔しくて火が付きました。先生に「化学の道へ行くと決めました。一番化学が得意な生徒に教えてもらうから紹介してほしい」と宣言。意地で言ったようなものですが、その生徒が女の子ですごくかわいくて、一生懸命勉強しました。結果、大学で応用化学を専攻したのです。人生そんなもんです。
 そして花王に入社して受け持ったのは、応用化学とはかけ離れた皮膚科学研究。一から猛勉強し、結局五十年間没頭しています。肌がきれいになれば、巡り巡って社会が明るくなる。勝手に社会活動だと思ってやっています。

 いもかわ・げんじ 1947年、新潟市生まれ。名古屋大工学部応用化学科の修士課程を修了し、花王に入社。「ビオレ」や「キュレル」シリーズの開発に携わる。2005年に花王を退職後、東京工科大教授、中部大客員教授などをへて現職。医学博士。20年に紺綬褒章受章。


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