本文へ移動

【石川】投票は微力でも 無力ではない

2021年10月16日 05時00分 (10月16日 12時34分更新)

北陸中日新聞 金井編集局長

「一票には400万円の価値」

 衆院選が19日に公示される。この選挙で何を考え、どう行動するか−。国政を長年見つめてきた東京新聞元政治部長で本紙の金井辰樹編集局長と、地方政治や報道の矛盾を追及した映画「はりぼて」で知られるドキュメンタリー映画監督・石川テレビ放送記者の五百旗頭(いおきべ)幸男氏が対談し、事前に募集した読者からの質問に答えた。「投票は微力であっても、無力ではない」。2人が強調したのは一票の価値だった。 (押川恵理子、写真・久米洋一)
 「投票したい人がいない、投票したい党がない時はどうすればいいか」(金沢市・鶴川映子さん、七十四歳ほか)。複数の読者から、こんな質問が寄せられた。金井氏は「報道や公約をみながら、どの政党に投票すると、自分の暮らしはより得になるかを考えてみる。仮に自分が投票した候補者が負けても、その一票は無駄ではない。健闘した結果が政治を少し変えることがある」と答えた。
 五百旗頭氏は、一回の選挙で何かが劇的に変わることは難しいが「有権者が悩み、考え続ける先に投票率の上昇、選挙結果の変化があり、さらに民主主義の発展、成熟につながる」と力説した。

石川テレビ 五百旗頭記者

「考える先 民主主義発展」

 「子どもたちに政治の大切さを啓発するジャーナリストを教えてほしい」(富山市)という質問にも回答。金井氏は「われわれの報道が、まだ子どもや若者に刺さっていない。反省していかなければいけない」と述べ、新聞やテレビで活躍するジャーナリストではなく、動画投稿サイト「ユーチューブ」を中心に発信する、お笑いジャーナリストたかまつなな氏を例示した。五百旗頭氏は「自民党の総裁選がテレビのワイドショーを占拠した。伝える側が理性的にバランスを取らないと、政治側にメディアが利用されているという印象がぬぐえない」と報道の課題を指摘した。
 このほか、対談では衆院選における一票の価値が話題に。衆院議員の任期は最大四年間で、選挙結果によってこの間の国の予算四百兆円の使い道が決まるともいえる。単純に一億人の有権者数で割ると「(一票には)四百万円の価値があるのではないか」と金井氏。
 五百旗頭氏は昨年十月の富山県知事選や、今年七月の同県高岡市長選の投票率がそれぞれ前回と比べ20ポイント以上の大幅増になったことを紹介。ともに保守分裂選挙だったことだけでなく「経済団体などを駆使する『締め付けの選挙』に自民党員も嫌気がさし、投票行動につながった」と分析した。さらに「コロナ下で有権者は政治によって生命や財産が脅かされることを体感的に知った」とし、有権者の意識の変化を指摘した。
 金井氏は「自民党総裁選が盛り上がったのは総理大臣を決める選挙だからだが、総理大臣を本当に決めるのは衆院選でわれわれの一票によって選ばれた多数派だ。総裁選は準決勝。衆院選が決勝戦だ」と改めて選挙の意義を語った。

 【コロナ下の衆院選 ここが知りたい!】 東京新聞元政治部長で北陸中日新聞の金井辰樹編集局長と、ドキュメンタリー映画監督・石川テレビ放送記者の五百旗頭幸男氏の対談詳報


 金井氏(以下、敬称略) 衆院選が10月31日に迫ってきました。この選挙で何を考え、どう行動したらいいか。五百旗頭さんと考えていきます。
 まず、ちょっと刺激的な話を投げかけます。選挙での一票は一体いくらぐらいの価値があるか考えたことがありますか。そもそも衆院選とは、ものすごくおおざっぱに言うと、私たちが払った税金の使い道をどういうふうに山分けするかを決める選挙です。われわれの税金は国の予算になり、1年間で100兆円が使われます。衆院議員は任期が最大4年間あるので、400兆円の使い方を決めるものです。18歳以上の有権者は約1億人いますので、400兆を1億で割ると、実は1票は400万円の価値があるんじゃないかと。それぐらい重要な選挙だと考えています。
 五百旗頭氏(同) 新型コロナウイルスが感染拡大したこの1年半で、有権者は政治によって生命や財産がおびやかされることを体感的に知ったと思うんです。台湾やニュージーランドはしっかりしたリーダーが国民を守ってくれる。日本は後手後手、行き当たりばったりの対応で、国民が危機にさらされた。そこで政治に対する向き合い方が国民にとってかなり大きな変化になり、コロナ下のいろんな選挙でもいろんな変化が出てきていると思います。
 金井 政治家は枕ことばのように、国民の生命、安全と言います。われわれ何となくピンとこなかったのですが、この4年間は自分の生命と安全と財産がどうなるか、皆さん1度や2度は考えてきたでしょう。だから、投票に向けての判断材料はたくさんあると思います。
 与党と野党をどう見比べたらいいか。コロナも含め、4年前の暮らしと今の暮らしと比べてどうなったかは、与党と政府が行ってきたこの4年間の実績をきちっと考えて評価してください。野党は今度の選挙で示している公約が好ましいのか、実現できそうなのか。切り離して考えないと難しいと思います。
 10年ぐらい前、マニフェストという言葉がありました。民主党政権が公約を守らなかったことでかなり批判されましたが、明確な公約を示して、それを実現しようとするサイクル自体は正しかった。マニフェストがダメだったわけではないと思うので、皆さんの4年間の生活を振り返りながら、公約を見比べて、10月31日を迎えていただきたいと思います。
 そんな中、投票率が下がって、政治不信と言われています。北陸地方に根差して取材している五百旗頭さんはどうお考えですか。
 五百旗頭 北陸地方の有権者は「雰囲気」で判断していることもあるのでは。保守王国なので、自民党が地域に根差している。いろんなしがらみがあって、地域としてこの人を推すからいいじゃないかと。若い人も何となくこの候補者はそんなに好きではないけれど、悪い人ではなさそうだしと、そんな雰囲気で投票してしまうことがこれまで多かったように思うんです。そうして選んできた政治家がコロナ下で何もできなかったことが分かった。若者の投票率は下がりっぱなしですが、今回の選挙でどう変わっていくか注目しています。
 金井 2009年の政権交代の時ですが、世の中が変わるかなと思った瞬間は投票率が上がる時なんです。今回コロナ下の選挙はみんながいろんなことを考えて気づいた局面であると思うので、投票率は、感染が怖いから下がると決めつけているところもありますが、上がるんだとポジティブに考えたいです。
 五百旗頭 20年10月の富山県知事選では前回35%だった投票率が60%と、25㌽上がった。21年7月の高岡市長選も前回の36%から58%と、22㌽上がった。なぜかというと、自民党の保守分裂の選挙になったこともありますが、自民党の組織もこれまでは経済団体などを駆使し、締め付けの選挙を行ってきましたが、それだと現状は何も変わらないという意識が有権者に働き、自民党員さえも旧来のやり方に対して嫌気が差して、投票行動につながったとみています。
 金井 僕も全く同感です。コロナ下の選挙は旧来型の選挙を壊しているという気がするんです。数年前にインターネット選挙運動が解禁となった時、若者の選挙を盛り上げようとしましたが、期待したほどは盛り上がりませんでした。当時の選挙はまだ地盤、看板、かばんといって、有力後援者や資金、名前がある政治家が強いことが崩れなかったからだと思います。コロナ下の選挙によって、地盤、看板、かばんに頼る選挙は後援者が集まる3密のため、役に立たなくなりました。ネットや会員制交流サイト(SNS)を駆使して、若い人たちの声が届く選挙になりかけてきているのではないか。コロナ下のデモクラシーは新しいものでもいいかなという気がします。
 五百旗頭さんは富山県知事選、同県高岡市長選の話をされましたが、自民党総裁選で菅さんがやめるきっかけになったのは横浜市長選。横浜市長選の投票率は50%弱でしたが、単独では過去最高でした。必ず何かが起きる始まりの時は、投票率が上がることが証明されています。投票率を上げたい。ゆめゆめ皆さんの400万円をどぶに捨てないでほしいとの思いで、報道していきたい。
 人口比率が低くなって投票率も低くなっている若者、人口比率が高くて投票率も高い高齢者と比べると、どちらが投票の結果を左右するか、政治家がどっちを向いて政治をするかは、明々白々だと思うんです。世代間格差をあおる気は毛頭ないですが、若い人たちは、自分たちは政治からこのままだと忘れ去られてしまう、無視されてしまう存在になりかねないという危機感と怒りを持って一票を投じていただきたいという思いを持っています。
 五百旗頭さんはメディアの役割にもいろんな考えがあるそうですね。東京新聞(中日新聞東京本社)の政治部に長くいた僕にとっては恐らく耳が痛いというか、内心穏やかじゃない話かもしれませんが、問題提起をしてください。
 五百旗頭 今の政治報道は政局に偏っています。実際に政治家がどんな政策を訴え、どんな議論がなされているかという中身の話ではなく、政治の権力闘争にメディアの意識が向いているのではないでしょうか。政局報道はワイドショー的に面白いけれども、盛り上がっている時は世の中の関心が向かうが、終わると、一気に冷めてしまう。その原因をつくっているのが政治部の報道スタンスにあるのではないかと、地方から見ていて思います。実際どうでしょうか。
 金井 よく聞いていただいた。石川県の皆さんになかなかご理解いただきにくいかもしれませんが、われわれ中日新聞社の政治報道は東京新聞の政治部でやっています。僕たちは僕たちなりに、五百旗頭さんから問題提起いただいた点は意識しているつもりで、実は2011年の東日本大震災後の原発事故の時に僕たちは目覚めたのです。要するに政局報道をする政治部の記者は、われわれもそうでしたが、政治家に取り入ることで情報をいち早くもらおうという意識があまりにも強かった。だから政治家に嫌われたくない、政治家の関心事である政局報道をしてきたのですが、よくよく考えたら、政治家に気に入られたって、明日分かる話を半日前に教えてもらうのがせいぜいなわけじゃないですか。われわれ、五百旗頭さんが追求している真のスクープは、政治家が絶対にオープンにしたくない話をほじくり出すこと。それは政治家に気に入られること、気に入られないこととはあまり関係がありません。僕たちは政局報道に明け暮れることは全く意味のないものだという意識は持っています。東京新聞・中日新聞では政局報道は極力扱わないとしていますが、政治報道全般でいうと、政治家たちの興味本位でつくられているようなものがあり、まだまだ反省し、改善していかないといけません。
 五百旗頭 新聞だけじゃなく、テレビの問題もあると思います。自民党の総裁選なんて、一つの党の総裁を決める選挙で、あれだけテレビのワイドショーを占拠してしまう。自民党は比較的、テレビの報道に圧力をかけてきた政党だが、自分たちの総裁選にあれだけボリュームをさかれることには当然、異議を唱えない。党にとってはいい話ですから。伝える側が理性的にバランスを取らないと、政治側にメディアが利用されているのではないかという印象はぬぐえない。
 金井 僕もそう思います。同じ日に完全に公平でなくても、トータルで公平な報道であればいいという議論があります。総裁選が終わった後は野党側に目を向け、じっくり報道しなければならないと思いますが、正直に言って、総裁選の時期と比べると、有権者の方々も報じる側も熱がやや低くなっているという印象がなくはない。これは僕たちとしてはいけないこと。
 総裁選がなぜ盛り上がったのかというと、総理大臣を決める選挙だからなのだけれど、本当に総理大臣を決めるのは、総裁選後の衆院選でわれわれの一票で決まった多数派。こちらが決勝戦なんです。総裁選はしょせん準決勝に過ぎなかったわけで、僕たちも決勝戦に向けて、できるだけ有益な情報を皆さんにお伝えしなければならないし、みなさんの一票が決勝の一票であることを理解していただきたい。
 僕の方から自己反省も込めていうと、選挙報道の不十分な点は、政党の党首がこう言いました、各党の公約はこうなっていますというのを垂れ流すところが多かったと思うのです。自民党、立憲民主党が公約を発表しました。片方が「分厚い中間層を構築する」、もう片方は「一億総中流社会を復活させる」と言っている。さあ、どちらにしますかと言われても、どっちがどうだか分からない。その違いをきちんと説明できない。メディアが持ち帰って、聞いて納得するまで何度も何度も質問をぶつけて、読者、視聴者の皆さんに示すことをしなければならない。
 五百旗頭 今、そのあたりが足りていないと。
 金井 足りていないですね。選挙中は取材しづらいですが、与えられたもので料理している感じは少しもどかしいと思います。候補者は所属する政党と整合性のない発言をすることもあります。それは政党の言っていることと違うのではないでしょうか、どっちが正しいのでしょうかと、ただしていくことが必要です。
 今回の対談に合わせて北陸中日新聞では読者から意見、質問をいただいております。一つめは僕も青ざめるような質問ですが、同じ主旨の質問をいくつかいただきました。簡単に言うと「投票したい人がいない時、投票したい政党がいない時はどうしたらいいのか」ということです。一票を無駄にしないでくださいとわれわれはいつも言っているのだけれど、実際こういうふうに思っている人はたくさんいるし、先日の石川テレビ放送の県民意識調査でも無党派が三十数%いましたよね。どのようなアドバイスをされますか。
 五百旗頭 まず選挙において、自分が求めているあらゆる政策を網羅している人はいない。いざ投票しても、結果は自分が当選させたかった人が通らないことはある。それが選挙なのです。だけど、自分の意に沿った人がいないから投票しないのはちょっと短絡的。メディア側の伝え方の問題もあると思いますが、そもそも選挙とはそういうものなんだとまず分かってもらわないと。
 投票したい人がいないから投票しない、一票しか権利がないから投票しても無駄だという話もありますが、投票することは微力であっても、無力ではない。投票しない限りは無力なのです。結局、投票しなければ何も変えられない。そこの重大さに気づいてほしいです。
 金井 冒頭に言った400万円のロジックは若干乱暴だったかもしれないけれど、400万円の価値があるともいえるものを全く行使しないのは、もったいないことこの上ない。そういう意識で、われわれの報道、公約をみながら、どの政党に入れると、私の生活はより得だろうかという意識で選んでもいいと僕は思います。いずれにしても一票を行使してほしいし、仮に負けた方に入れた一票は全く無駄でなくて、この人は惨敗するかと思ったけれど、思ったよりも健闘したということも、政治を少し変えていくことがあります。五百旗頭さんがおっしゃったように、とにかく一票は無駄ではないということは強調していきたい。
 五百旗頭 恐らく一回の選挙で何かが劇的に変わることは、あることはあるが、ほぼない。有権者として、意に沿った人がいなかったが、その中で折り合いをつけて投票していく。SNSが発達している時代は今まで以上に候補者に意見を言いやすいわけです。ツイッターでDMも出せますし、ツイートもできます。そういう活動によって、有権者が候補者を育てるという考え方もある。さらに踏み込んでいくと、それでも納得がいかなければ、自分が立候補できる。それが選挙。有権者側が悩んで、考えていくことを続けていく。その先に投票率の上昇、選挙結果の変化があるだろうし、さらには民主主義の発展、成熟があると思います。その作業は単純で、楽なものではないと、有権者は認識する必要があるのではないでしょうか。
 金井 もう一問だけいきましょう。子どもたちに政治の大切さを啓発しているジャーナリストは知りませんかという質問です。
 五百旗頭 選挙の重要性は報道に携わる人間が日々どう伝えていくかということに行き着くと思いますが、今言ったような話で、選挙は単純じゃない、簡単に変化が起こるものじゃない。世の中の人は簡単な答えや、変化を求めたりしますよね。でも、そうじゃないと。その根気強さを有権者に求めるのだから、僕たち伝える側も根気強く報道していく。
 例えば今回の企画も、中日新聞さんとして一回で終わってしまったら意味がない。選挙のたびにやっていくことも必要だし、課題が見つかったらそれについて考えていくことがメディア側にも必要。そういうことの繰り返しによって選挙も変わるし、僕らメディアの伝え方も変わってくるし、有権者の意識も変わってくると思います。
 金井 お笑い系ユーチューバー、たかまつななさんは、かなり分かりやすい言葉で政治を発信しています。ユーチューブをごらんになると面白いと思います。こういう質問をいただくこと自体が、われわれがまだ若者や子どもに刺さっていないことだと思います。自己反省していかなければなりません。
 北陸地方では10月31日に衆院選が行われた後、春に石川県知事選、夏に参院選、秋に県庁所在地の金沢市長選があります。この1年間に国政、ローカルの重要な選挙が続けて行われます。そのスタートを切った時期であると考えると、とても重要な時期。われわれも発信し、皆さまの意見をいただきながら考えていきたいと思います。
  ◇     ◇     ◇ 

 今回の衆院選を皮切りに来春の石川県知事選、夏の参院選、秋の金沢市長選と今後一年間、国や北陸地方の未来を左右する選挙が続きます。北陸中日新聞は紙面はもとより、動画や会員制交流サイト(SNS)をこれまで以上に活用し、「選択の一年」を報道していきます。

▽対談の映像はユーチューブで

 約30分にわたる対談の映像は前後半に分け、動画投稿サイト「ユーチューブ」で発信しています。前編は石川テレビ放送==、後編は北陸中日新聞==それぞれの公式チャンネルで視聴できます。

関連キーワード

おすすめ情報

北陸発の新着

記事一覧