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39度の熱でうなされる、もうろうとした病床で聞こえてきたノムさんの言葉【竹下陽二コラム】

2021年10月15日 10時42分

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ヤクルト時代の野村監督

ヤクルト時代の野村監督

◇生涯一野村番がつづる「ノムさんジャーニー」その17
 私は、今、病床でこれを書いている。ふとんの中でちょっと、思い付いたことがあるからである。先日、突然の39度の高熱と体の節々の痛みに襲われた。あ、これは、来たな。コロナだなと。私は、感染拡大防止のため、自宅の自室に隔離されることになった。しかし、夜中に一睡もできずにウーウーうなされていると、妙なことに気付いた。ビローな話で申し訳ないが。オシッコが出ない。排尿痛と残尿感がハンパない。これは、コロナじゃない、とピンときた。
 オシッコぐらいで、大げさなこと言うんじゃないとお叱りを受けそうだが、たかが、オシッコ、されど、オシッコなのである。救急車を呼ぼうと一瞬だけ思ったが、朝まで待った。今、大変な世の中で熱があるのに病院は受け入れてくれない。まず、発熱外来でワンクッション置かなくてはならない。これから、季節性インフルも流行る。コロナとインフルが同時に流行ったら、混乱しないか。もっと、緊急性を要する場合、手遅れにならないか。ちょっぴり、不安になったが、この問題は原稿の趣旨と離れるのでやめとく。私の膀胱はパンパンであった。晴れて?前立腺炎と診断が下された。点滴と抗生剤を手に帰宅し、飼い犬の24時間看病のもと、ひたすら、寝る生活が始まった、
 しかし、人間、病気になると、弱気になるもんだ。59歳。そしたら、次はもう60。還暦なんて、百万年先の遠い未来の話と思っていたのであるが、急に心細くなった。オレも年か。ふとんの中でネガティブな思考ばかりが浮かんだ。「人間が勝てないものが、2つある。それは、年齢と時代である」。ノムさんも60の声を聞いたぐらいからそんなことを言うようになった。プロ野球界も世代交代が進み、ノムさんも時代の移り変わりをひしひしと感じていたのだろうか。年寄り引っ込めの風潮に、負けてたまるか。くそったれの精神だったのだろうか。あるいは、自分の子どもと同じぐらいの記者に向かって、お前らもいずれそう感じるぞ、という予言でもあったのだろうか。
 目を閉じると、今度はいろんな情景がまぶたに浮かんだ。家族のこと。仕事のこと。古里のこと。健康のこと。お世話になった人のこと。それらの人に私は、優しくできているだろうか。傲慢(ごうまん)になっていなかったであろうか。ノムさんの声が聞こえてきた。「スランプやピンチになったらな、謙虚に謙虚に、と自分に言い聞かすんや。こうやって、バットを短く持って、振り抜くんや。謙虚が一番やで」。神宮球場のベンチ前でノムさんが、両手につばをはきかけるフリをして、太い指で握り締めたバットをブルンと振る光景まで鮮明に浮かんだ。まだ、若かりし頃のノムさんであった。
 病気はイヤだ、なるべくならなりたくない。でも、良いこともあるかもしれない。それは、身も心も浄化され、リセットできることではないか。健康に他人に気遣い、謙虚になれる。全快したら、新たな気持ちで、人生の旅に出よう。
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