【雨乃日珈琲店だより ソウル・弘大の街角から】(19)「おいしかった」発言
2019年7月27日 02時00分 (5月27日 05時07分更新)
ただの挨拶か、本心か
出先で適当に入った日本式ラーメン屋で食事を済ませ、会計したところ、店員さんに「おいしかったですか(マシッケトゥショッソヨ)?」と聞かれ、一瞬言葉に詰まった。
実はこれ、韓国の飲食店でよくあるやりとりだ。「おいしかったですか」は決まり文句ではないが、挨拶に近い質問といえる。もちろん、実際においしければ何の問題もない。客として悩むのは、それほどおいしくなかった場合だ。挨拶と割り切って笑顔で「はい(ネー)」と言うのが正解なのだろうが、そんなことで韓国の飲食業界に発展はあるのかと、もやもやしながら店を後にすることになる。
もちろん私たちは、当店のお客さんに対しそのようなことは聞かない。と言うより、どんな答えが来るのか怖くて聞けない。それなのにお客さんは、こちらが聞いていないのに「おいしかったです(マシッケモゴッソヨ)」と言って立ち去っていく。本当においしかったと思ってくれるのならこんなにうれしいことはない。第一、そのような方の気持ちは、食べているご様子だけ見ても伝わってくるし、それを見て私たちも救われる気持ちになる。
しかし一方で、「おいしかった」と言って立ち去る人に限って、ケーキやドリンクを残していく現実もある。うきうきしながらテーブルを片付けに行ったら、コーヒーが残っていて、余計にどんよりしたのは一度や二度ではない。なので初めてのお客さんに「おいしかった」と言われると、「どっちなの?」と思わず身構えてしまう。
話は戻ってラーメン屋。「おいしかったですか」と聞かれた私は、どう答えるか迷った末、目をそらしつつ「はい……」と力なく答えた。すると店員さん、「弘大でカフェをされてますよね? 前に行きました、おいしかったですよ!」と言った。ああ、無駄に韓国飲食業界の発展に気を使わなくてよかった。油断できない。
しかしその店員さんの「おいしかった」発言も本心なのかどうなのか。特に何も考えていないのか。真相は藪(やぶ)の中である。 (しみず・ひろゆき=ライター、いけだ・あさこ=書家、金沢市出身)
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