【雨乃日珈琲店だより ソウル・弘大の街角から】(26) 映画は国民的娯楽  

2020年2月22日 02時00分 (5月27日 05時07分更新)

文・清水 博之  書・池多亜沙子

アートの街ということもあり、若い映画監督たちも当店を利用してくれる。当店が映画の撮影に使われたことも何度か=2018年、ソウルで

 日本と同様、新型コロナウイルスの話題でもちきりの韓国。街は外出を控えるムードとなり、普段は祭りのような夜の弘大も、めっきりおとなしい様子だ。当店は常連客ばかりの小さな店なので大きな影響はないが、どこも不景気だと聞く。
 そんな二月、明るいニュースが韓国を沸かせた。ポン・ジュノ監督の映画『パラサイト 半地下の家族』が、米アカデミー賞にて四冠に輝いたのだ。特に作品賞の受賞は、非英語圏の映画としては史上初の快挙。世界的な大ヒットとなったばかりでなく、韓国でも再上映が始まり、ウイルスの影響で閑古鳥が鳴く映画館に観客が戻りはじめた。
 韓国映画の強さの秘訣(ひけつ)はやはり、国民が映画好きということがあるだろう。千円もしない手ごろな価格で鑑賞できるため、老若男女が日々の娯楽として気軽に映画館を訪れる。映画館も国際的な映画祭も多数あり、さまざまな作品に触れることができる。私も韓国に来てから映画館に行く回数が増えた(当店から徒歩圏内に映画館が九つある)。

太っ腹な「映像資料院」

 なかでもすごいのは、弘大から地下鉄でひと駅のデジタルメディアシティにある、国営の無料映画館の存在だ。ここ「映像資料院」は韓国古典映画の紹介を中心に行うが、太っ腹なことに最新映画も外国映画も無料で上映しており、ポン・ジュノのような著名映画人が舞台挨拶(あいさつ)に来ることも。映画産業に力を入れる国ならではの施設だ。

「也太奇」(2015年)。何かに感動したり驚いたりした時に、自然と声が出るさま。受賞の瞬間をとらえた映像は、韓国の人たちを歓喜させた

 そのような所なので、特に平日の日中はシルバー層の観客が多い。上映中に携帯で電話するなど、マナー意識が昔のままで止まっている残念な人(観察するには面白い)がいる一方で、低予算自主映画からジョージア古典映画まで、どんなマニアックな映画にもお年寄りたちが集まり、しっかり鑑賞しておられるのには驚かされる。上映前、後ろの席のおじいちゃんたちが騒がしいなあと思ったら、「〇〇監督の最新作は観(み)たか?」と情報交換していた。
 若者だけでなくお年寄りまでコアな映画ファンが巣くう韓国。監督たちも鍛えられざるを得ないわけだ。(しみず・ひろゆき=ライター、いけだ・あさこ=書家、金沢市出身)

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