【雨乃日珈琲店だより ソウル・弘大の街角から】(27)3月の営業報告
2020年3月28日 02時00分 (5月27日 05時07分更新)
感染拡大、気をもむ日々
文・清水博之 書・池多亜沙子
新型コロナウイルスの猛威に振り回される三月だった。
韓国では二月末から大邱(テグ)市を中心に感染者数が急増。感染者の立ち寄った大型スーパーや映画館が休業となり、外出への恐怖心から特に飲食店に閑古鳥が鳴いた。当店はいつも通り常連客たちが訪れてくれたが、いつか営業できなくなるのではと気が気ではなく、他のお店と同様、店内の消毒や健康管理に神経をとがらせた。
さらに九日からは、日韓両国が相手国からの入国制限(ノービザ入国の廃止など)を開始。航空便が激減したこともあり、日韓の人々が今までのように簡単に往来することが難しくなってしまった。そのため、観光客で賑(にぎ)わっていた明洞(ミョンドン)や仁寺洞(インサドン)は閑散とした様子に。国際郵便がスムーズに届かなくなったことも心配の種となった。
三月下旬となる今も、韓国ならではの元気の良さはまだ戻らない。終電がなくなるまで泥酔しタクシーで帰る人々の姿は減り、騒がしかった地下鉄車内は静まり返っている。弘大で飲食店を営む知人もアーティストの友人も、お金の回らなさにため息をついている。
買い占めなどによる物資の不足は感じないが、マスクの購入だけは少し面倒だ。決まった曜日、決まった時間に薬局に行けば、国の定めで一人につき週に二枚だけ購入できるが、たった二枚しか買えないとも言える。ある日、店で知人と「マスクが足りない」と話していたら、それを聞いた初見のお客さんが「良かったらどうぞ」とマスクを二枚プレゼントしてくれた。誰もが困っているこの時期に、さっと手を差し伸べてくれたのが嬉(うれ)しかった。
韓国での感染者増加率は減少傾向にあるがまだ油断はできず、政府は国民に二十二日から十五日間の外出自制を求めた。当店も売り上げが一気に落ち込むだろう…と覚悟していたら、なぜか今日(二十三日)は先週よりも忙しく、なんでやねんと思った。一週間後、いや次の日ですらどうなっているかわからない日々が続くが、この歴史に残るだろう日々を受け入れ、見つめたいと思っている。 (しみず・ひろゆき=ライター、いけだ・あさこ=書家、金沢市出身)
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