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何のために書いてきたのか分かる1冊 「コロナ禍の今、想像して」  長女の鈴木さん 戦争体験紙芝居を絵本に かこさとしさん(越前市出身)の遺志

2021年10月10日 10時53分 (10月10日 10時53分更新)
戦闘機から脱出する日本兵。落下傘が開かぬまま消えていった=かこさとしさんの絵本「秋」(講談社)から

戦闘機から脱出する日本兵。落下傘が開かぬまま消えていった=かこさとしさんの絵本「秋」(講談社)から

  • 戦闘機から脱出する日本兵。落下傘が開かぬまま消えていった=かこさとしさんの絵本「秋」(講談社)から
  • かこさんの未発表作品について話す長女の鈴木さん=神奈川県藤沢市で
 「だるまちゃん」シリーズなどで知られ、二〇一八年に九十二歳で亡くなった絵本作家かこさとしさん(越前市出身)が、戦争体験を紙芝居に描き残していた。戦争を直接題材にした作品が見つかるのは初めて。生前の意向を受け、今夏に絵本『秋』(講談社)として刊行された。家族も知らなかった出来事が記されており、長女の鈴木万里さんは「かこが何のために絵本を書いてきたのかが分かる一冊」と話す。 (世古紘子)
 鈴木さんが昨春、かこさんの自宅(神奈川県藤沢市)で見つけた。十九枚の画用紙にクレヨンと水彩絵の具で描かれた紙芝居は、かこさんが好きな季節の秋を<とてもきらいになったときがありました>との告白に始まる。
 それは、十八歳だった一九四四(昭和十九)年。軍需工場に勤労動員されたこと、カボチャばかり食べたこと、盲腸の手術を執刀した<おでこ先生>が出征したこと。戦中の“日常”を描きながら、場面は秋晴れのある日、病院の地下壕(ごう)から目撃した出来事へと続く。攻撃された日本の飛行機から飛行士が飛び出したが、落下傘が開かない。地面に吸い込まれるように墜落するさまを、見ているしかなかった。かこさんは涙する自画像を太い線で描き、戦争はなぜ<いい人たちを、次々殺してゆくのだろう>と憤りをつづった。
 かこさんは、家族にも墜落事故は話していなかった。航空士官を目指した自身と重ね、「自分がそうなっていたかもしれないという衝撃と、一人の命が消えていくところを見た衝撃と。つらいものがあったのでは」と鈴木さんは推察する。
 紙芝居の制作は、デビュー前の五三〜五七年。川崎市でセツルメント活動に携わり、子どもたちに手作りの紙芝居を披露していたころで「体験を伝えたい気持ちがあったのでは」。作家として活躍していた八二年、絵本として出すため手直ししたがかなわず、編集者のわび状とともに返されていた。レイアウトや対象年齢などを記した“指示書”が残っていたことから「絵本を強く望んでいた」として、六十八年を経て世に出ることが決まった。
 「だるまちゃん」シリーズや「からすのパンやさん」、科学絵本など六百超の作品を遺(のこ)したかこさん。自伝的エッセー『未来のだるまちゃんへ』(二〇一四年)では、軍国少年として迎えた終戦を<後悔と慚愧(ざんき)、無知、錯誤の恥ずかしさを、忘れるわけにはいきません>と記し、本紙インタビューに「大人に流されず、自分自身で考える力を子どもに養ってほしい」と作品に込めた願いを語っていた。
 鈴木さんは「かこが絵本で平和な世界を描き出してきたのは、『秋』のような経験があったから。戦時と同じように日常が奪われたコロナ禍の今、絵本をきっかけに七、八十年前を想像してもらえたら」と呼び掛けている。

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