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カロリーナ編(5) プロを夢見た先輩

2021年10月11日 05時00分 (10月11日 05時00分更新)
ヨーロッパ選手権で3回優勝したライエル・グリムベルゲン。現在も将棋AIの開発などに取り組んでいる=東京都八王子市の東京工科大で

ヨーロッパ選手権で3回優勝したライエル・グリムベルゲン。現在も将棋AIの開発などに取り組んでいる=東京都八王子市の東京工科大で

普及活動 熱意と挫折

 将棋界に一時代を築いた谷川浩司(59)が二十代半ばで著した『光速の終盤術』。寄せの妙技を伝えるこの名著の英訳に、今は世界中からアクセスできる。東京工科大教授のライエル・グリムベルゲン(54)が自身の将棋サイトにアップしたからだ。一九九七年から二〇一三年にかけてのタイトル戦の棋譜も、ずらりと紹介している。ポーランドで将棋を始めたカロリーナ・ステチェンスカ(30)は、そこから大いに学んだという。
 「義務というより楽しみながらやっていました」。グリムベルゲンは熱心に情報発信していた十数年前を思い返す。オランダ・モンニッケンダム生まれ。大学に進学してチェスクラブを探したが見つからず、代わりに将棋クラブに入った。当時は国全体でもプレーヤーが百人程度。日本から送られてくる専門誌「将棋世界」の棋譜を“解読”しながら、熱心に腕を磨いた。
 ヨーロッパ選手権では三回優勝。プロ入りの夢を抱いて一九九五年に日本に移住し、冒頭のサイトも立ち上げた。しかし仕事が多忙で勝てなくなったのを機に、一線から遠ざかった。今は人間の思考をコンピューターで再現する認知科学を研究し、「人間らしい将棋AI(人工知能)」の開発に取り組んでいる。
 昨今の将棋ブームには隔世の感があるという。「対局が決着前からニュースになるのが驚き。私は羽生善治さんのすごさを見てきた。藤井聡太さんが彼を超えるか興味がある」。カロリーナが女流棋士になった時は、「やっとここまで来たか」と思った。「いつか奨励会を突破する外国人が現れたらすごい」
 グリムベルゲンは、将棋の海外普及活動に挫折したという。欧州で文化として根付くチェスには太刀打ちできないと痛感したからだ。「これからはチェスを知らない子どもをターゲットにするべきだ。将棋との初めての出合いを大切にして」。高い壁に挑むカロリーナに、先輩はそう助言する。(敬称略)
(岡村淳司)

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