本文へ移動

ノムさんと交わした男の約束「もう、終わりか?生涯一記者じゃないのか?」色紙が怠慢な私に毎日語りかけてくる

2021年9月29日 18時30分

このエントリーをはてなブックマークに追加
色紙にペンを走らせるノムさんを見守る筆者

色紙にペンを走らせるノムさんを見守る筆者

◇生涯一野村番がつづる「ノムさんジャーニー」その16
 先日のことである。とっくに定年した会社の先輩から、思いがけずにメールをいただいた。
 「最近、ノムさんジャーニー、書いとらんやないか? もう、飽きたか? 」
 いかにも、現役時代から皮肉屋の先輩らしい辛口のメールであった。
 グサリ。痛いところであったが、気にかけていただいたことがうれしくもあった。このコラム内で始めた、ノムさんの思い出をつづる「ノムさんジャーニー」のその15をアップしたのが、5月25日。以来、「ノムさんジャーニー」の更新を止めた。特に理由はない。なんとなくである。あえて、言うなら、さぼっていたのである。「今、温めているところです。そのうち、取って置きのネタで先輩を泣かせます~」と返したら「しらんわ。お前の原稿で泣いたことないわ(笑) 」ときた。先輩は、昔からしれっと傷つくようなことを言う。
 実はもう一人、「もう、終わりか? ネタが尽きたか? 生涯一記者じゃなかったんか?」と連日のように言ってくる人がいる。誰あろう、あの世のノムさんである。
 2020年2月に亡くなる前年の秋、本の出版の会見後の控室で勇気を振り絞って「生涯一記者、竹下陽二君へ」と書いてもらうようにお願いした。失礼にならないか。生涯一捕手がキャッチフレーズのノムさんにお願いすることにはプレッシャーがかかった。でも、その時の心境として、どうしても書いてほしかったし、虫の知らせか、本能的に、頼むなら今しかないと思った。ノムさんは、一瞬、逡巡したように見えたが、思い直して、ええよとつぶやき、筆ペンを取った。
 私が記憶しているのは、色紙に文字をしたためる時の丁寧さである。ゆっくり、ゆっくり。あまりにも、時間をかけるから、途中で止めてしまうんじゃないかと、ハラハラした。その時の写真も残っているが、なんとも言えない緊張感が控室を支配した。しがない一記者のお願いなど、やっつけでもいいのに、やると決めたら、手抜きはしない。一つのことをやる時の、集中力と丁寧さ。それが、ノムさんをノムさんたらしめた、一つの大きな要因のような気もした。以来、日常生活のあらゆる場面で「丁寧に」「丁寧に」と、雑になりそうに自分に言い聞かせるようになった。それが、ノムさんに学んだ、最後の教訓でもあった。
 そのノムさん直筆の「生涯一記者」の色紙は、自宅の自室に飾ってある。毎朝、起きる度に、その文字が目にイヤでも飛び込んでくる。「そろそろ、書けよ。おまえ、生涯一記者やろ? 」と言われているようで、私はそのたびに目をそらすのである。しかし、ジャーニーに終わりはない。言い訳がましいが、書かない日があっても、それも旅の途中である。何年かかろうと百話まで書く。それが、ノムさんとの男の約束だと、勝手に思っている―。
おすすめ情報

購読試読のご案内

プロ野球はもとより、メジャーリーグ、サッカー、格闘技のほかF1をはじめとするモータースポーツ情報がとくに充実。
芸能情報や社会面ニュースにも定評あり。

中スポ
東京中日スポーツ