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普通ならアスリートは主役…でも今はみんなで立ち向かわないと

2020年4月18日 15時36分

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2007年の世界陸上男子800メートル1次予選で力走する横田真人

2007年の世界陸上男子800メートル1次予選で力走する横田真人

  • 2007年の世界陸上男子800メートル1次予選で力走する横田真人
  • 横田真人((C)岩國英昭)

ロンドン五輪陸上800メートル代表・横田真人に聞く

 「アスリートファースト」。直訳すれば選手第一。近年広く聞かれるようになってきたフレーズだ。スポーツにおいて、主役が選手であることは論をまたない。一方で、主役と絶対視はイコールではない。ましてや新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言まで発令される状況下で、そもそも選手第一という考えは成り立つのか、選手はどうあるべきか。2016年まで現役選手で、現在は日本代表選手を指導するロンドン五輪陸上男子800メートル代表の横田真人(32)に聞いた。(敬称略)
 3月26日、横田は「チームとしては明日から週末にかけていくつかレースを予定していましたが、大会自体の開催に関わらず全て棄権することにしました」と自身のツイッターで宣言、続いて「アスリートである前に社会の一員としてあるべき行動を僕らはとっていきます」と理由を説明した。すでに陸上に限らず、あらゆる大会の開催が絶望的な状況だったが、それでも選手、現場サイドから先んじての欠場表明、そして何より競技より社会という姿勢。横田は本紙の電話取材に対し、こう真意を明かした。

 「1つはメッセージ。自粛という話が出た時に不要不急の意味はそれぞれにあるが、基本的にはやらないでねという話だと思う。その中で(五輪出場を狙う)アスリートがやりたいと言うと、五輪という文脈の中で『やらせてあげたい』と思う人がいる。僕らももちろんやりたいけど、やらないべきであるという考えをきちんと発信することがまず大事だと思った」
 スポーツをしなければ生活をできない人が、それでもスポーツをするべきではないという意思を表明することに意味があった。
 横田が指導するハーフマラソン女子日本記録保持者の新谷仁美(32)=積水化学=は普段から「走ることは仕事」と言い切る。仕事とは生きる手段、生きがいでもあることは分かっている。それでも横田は言う。
 「生きる上で必要な仕事だが、僕らを感じてくれる社会がないとスポーツは成り立たない。国や社会に依存している中で僕らができることは、経済価値を生み出すだけじゃなく、メッセージを発信することでもある。社会がピンチの時に、(日常の)仕事という文脈で語るのは違うと思った」
 では社会を前にした時、アスリートファーストという言葉はどういう意味を持つのか。折しも東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗は五輪延期が決まった後に「アスリートも自意識過剰はいけない。この苦難を乗り切って、甘えはいけない」と発言した。元五輪選手、コーチとして横田は「一部は正しくて、一部は過剰。普通に考えたらアスリートは主役。ただ、苦難を乗り切れという意味では正しい。スポーツや五輪は国をひとつにする力があるが、今は国難にみんなで立ち向かわないといけない時。アスリートだけが特別じゃないというのはその通り」と受け止める。
 そう言って、こう続けた。
 「何かがファーストである必要はない。アスリートと競技団体、スポンサーなどが対等に議論できること、対等になれるよう努力すること」
 アスリートは社会の一員として考え、行動し、利害関係者は対等な立場として受け入れる。本来ならば新型コロナウイルスが猛威を振るう、五輪が延期になるその前から当然意識しているべきだったこと。未曽有の事態だからこそ、健全な関係が求められる。
 ▼横田真人(よこた・まさと) 1987(昭和62)年11月19日生まれ、東京都港区出身の32歳。慶大2年だった2007年に日本選手権800メートルで優勝し同年の世界選手権(大阪)日本代表に。同4年の09年には男子800メートルで当時日本記録となる1分46秒16を樹立。翌10年に富士通に入社し、12年ロンドン五輪に出場。16年に現役を引退し、現在は新谷仁美らのコーチを務める。米国公認会計士の資格も持つ。

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