本文へ移動

杉本美術館閉館 あまりに惜しい幕引き

2021年9月18日 05時00分 (9月18日 05時00分更新)
 画家の杉本健吉さん(一九〇五〜二〇〇四年)の作品を常設展示する杉本美術館(愛知県美浜町、写真)が十月末に閉館する。十六日には最後の企画展が始まった。一九八七年の開館から三十年余での幕引きは、あまりに惜しい。
 杉本さんは名古屋市出身。終生を通じて奈良の風物を描き続け、挿絵やグラフィックデザインなど幅広い分野でも活躍した。同市の地下鉄のロゴマークなど、今なお現役のデザインも少なくない。
 美術館は名古屋鉄道が運営し、杉本作品を所有する財団から借りて展示してきた。美術館も財団も名鉄の主導で誕生したという経緯があるが、ここへ来ての閉館は、名鉄の経営的な苦境が一因だ。
 コロナ禍で鉄道の利用やホテル・レジャー施設が低迷して、本年三月期の連結決算は二百八十七億円の最終赤字に。美術館の運営は社会貢献という側面もあったが、北陸の拠点・金沢市内のデパート「めいてつ・エムザ」さえ手放す状況の中、閉館が決まった。
 開館当初は年間九万人が訪れた同館だが、二〇二〇年度はわずか四千人にまで落ち込んだ。同社は「美術館として一定の役割を終えた」としているが、きっと泉下の画伯は寂しがっていよう。
 今後生前の画伯を知らない世代が増えるだけに、その人と画業を伝える美術館の存在意義は、むしろこれからにこそあったのではないか。閉館の後も、画伯が財団に寄贈した約七千点の絵画などは、一般に公開される機会が引き続き確保されるよう、強く望みたい。
 長引くコロナ禍で、美術館には厳しい時代だ。他の美術館、特に規模の小さな施設では、他館とのネットワークを強め、所蔵作品の貸し借りや、展覧会の共催などの新機軸を次々に打ち出して、常に新たな魅力を来館者に提供できるよう取り組んでいってほしい。
 愛知県では名古屋ボストン美術館(名古屋市)が一八年に閉館、まだ後継の施設さえ決まらない。「心のインフラ」というべき文化・芸術に接する機会がコロナ禍で減っている今日、他の美術館には一層の運営の努力を期待したい。

関連キーワード

PR情報