<美のありか> 「袋法師絵巻(部分)」(サントリー美術館蔵) ばかばかしさに人間味
2021年9月17日 05時00分 (9月17日 05時00分更新)
絵の中に、おかしな顔がのぞいている。
一見、優雅な王朝絵巻。まず目を引くのは、女主人らしき高貴な女性だ。こちらを向いた顔には、みだれ髪がはらりと落ちかかる。屏風(びょうぶ)で囲われた、一段高い畳に伏せっている。女性の背後には、紅葉模様の赤い大きな袋。視線を下げると…。「え?」と、思わず声が出た。誰、これ。
「ヌーボーとした表情で、人間というより妖怪のよう。どこか憎めません」とほほ笑みながら解説するのは、サントリー美術館学芸員の久保佐知恵さんだ。
この絵は、南北朝時代に成立したとされる「袋法師絵巻」の一場面で、日本中世の三大性愛絵巻のひとつ。原本は残っていないが、本作を含めて江戸時代に数多くの模本が作られた。
絵の右側に目をやると、僧侶姿の若い男が、うろたえる侍女を前に寝所に侵入している。絵巻は漫画のコマのように、右から左に展開していく。つまり、この侵入した男=法師が、袋からのぞく顔の主だった。
さて、絵を読み解いていくと−。女主人は左手を胸にあてている。絵に添えられた詞書(ことばがき)には、「胸が痛いから早く寝たい」。侍女の一人は灯火に手をやっているので、時刻は夜と分かる。実はこの女...
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