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<大波小波> 直木賞の選評を評す

2021年9月14日 16時00分 (9月14日 16時00分更新)
 佐藤究(きわむ)『テスカトリポカ』(KADOKAWA)の直木賞受賞に驚きはなかったが、林真理子の講評には驚愕(きょうがく)した。「子供の臓器売買」が「読む人に嫌悪感をもたらす」ので直木賞を与えてよいかが議論され、文学とは「人に希望と喜びを与えるものではないのか」との意見もあったという。
 文学には、殺人や暴力を通して悪に迫ることも、社会の矛盾を暴くことも、良識や常識を疑う新たな視点を示すこともできる。こうした可能性を捨て「希望と喜び」という古く安っぽい文学観を語ったのが誰か気になっていたので、「小児の扱い」が「安易」で「最後まで小説として認められなかった」(伊集院静)、「子どもの臓器売買」を「商売」にする「異常な世界」を「現代の小説家が神話的物語として語る自由」はあるが「小説家はそのとき神にでもなるほかあるまい」(高村薫)などの選評が掲載された『オール読物』(9・10月合併号)は興味深かった。
 コロナ禍で中止の世論も根強かった東京オリ・パラは、首相、五輪相、都知事らが夢、希望、感動を連呼して強引に開催した。夢や希望が安売りされ、挙国一致に使われる危険もある時代だからこそ、文学にはそれに...

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