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あこがれの甲子園で躍動した野球少女たち…本人が『できない』と言っていないのに周囲が『できない』と決め付けるべきではない

2021年9月14日 11時38分

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ナックル姫と呼ばれ活躍した吉田えりさん

ナックル姫と呼ばれ活躍した吉田えりさん

◇ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記
 韓国映画「野球少女」を観た。野球部に所属する高校3年生の女子がプロ野球選手になる夢を追うストーリーは、かなりシビアでリアルだった。
 「プロ野球選手になるのが難しいのは女子だけではない。男子だって同じで難しい。本人が『できない』と言っていないのに、周囲が『できない』と決め付けるべきではない」
 映画の全体を貫くテーマだ。主人公の少女は貧困に追い詰められた母親が押し付ける現実と夢の狭間に揺れつつも、投球のスピン量が多いことを生かして打者を打ち取ることを目指し、その一途な思いは周囲の心も動かしていく。
 野球部のグラウンドには女子トイレがなく、男子トイレの個室を自分の部室にしているシーンもある。これなどは韓国での実話を元にしているからこそ、描くことができたのだろう。
 この夏は日本でも女子野球に関する大きなトピックスがあった。一つは7月に女子プロ野球リーグが事実上消滅したこと。サプリメント販売のわかさ生活が主体となって2010年に関西を拠点に2チームを結成、その後4チームになったが、赤字経営にコロナ禍が追い打ちを掛けて持ちこたえられなかった。
 もう一つは、8月23日に全国高校女子硬式野球選手権の決勝が初めて甲子園球場で行われたことだった。神戸弘陵(兵庫)が高知中央を4―0で下した試合で躍動する選手たちを見ながら、女子も甲子園にあこがれていることに恥ずかしながら初めて気付かされた。
 かつて私が草野球で試合を行っていた時に、打球を捕り損ねたチームメートの女子が顔にけがを負ったことがあった。軟式野球だったにもかかわらず顔にできたアザは一カ月近く消えず、その経験から、いつしか女子と野球を切り離して考えるようになっていたのかもしれない。
 ただ、思い返せば日本でも1990年代に明大に所属したジョディ・ハーラー投手(米国)が東京六大学野球の公式戦に登板し、「ナックル姫」と呼ばれた吉田えり投手も2008年から日米の独立リーグで投げるなど、先駆者はいた。問題は、それを物珍しさだけで見ていたことにもあったのだと今は思う。
 日本のプロ野球は1991年から「医学上男子でないものは認められない」の条項が撤廃された。一方で高野連は、危険防止の観点から女子の公式戦への出場は認めていない。「障がい者にはスポーツは危険で無理」というかつての考え方と同じで、間違った認識がいまだに根強く残っている。
 「本人が『できない』と言っていないのに、周囲が『できない』と決め付けるべきではない」
 この言葉を胸に刻み、野球少女たちを見つめていきたい。
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまで中日ドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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