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【富山】高岡おりん 映画に響く 山田洋次監督「キネマの神様」

2021年9月8日 05時00分 (9月8日 10時11分更新)

藤原書店に置かれた「おりん」の楽器。「キネマの神様」の冒頭やクライマックスの音楽が収録された=東京都新宿区で(藤原書店提供)

音楽担当「魂が宿る音色」

 松竹映画百年を記念して製作され、公開中の映画「キネマの神様」の音楽に富山県高岡市で生産された仏具「おりん」の音色が使われている。音楽を担当した作曲家の岩代太郎さん(56)は「おりんの音色は地平線の向こうまで響き渡るように美しく、人間の普遍性をテーマとしたこの映画にふさわしい」と話している。 (沢井秀和)
 静寂の中、演奏されているのは冒頭とクライマックス。岩代さん自身が、おりんの楽器を奏でた。高岡市の仏具メーカー「山口久乗」が製造している。
 冒頭の音楽を巡っては、岩代さんがさまざまな曲を作るものの、山田洋次監督(89)が「違うなあ」を繰り返して難航。休憩中の懇談で岩代さんがおりんの音色の美しさを山田監督に語り掛けると「聞いてみたい」。昨年十二月、二人そろって、楽器を所有する藤原書店(東京都新宿区)を訪ねて試聴すると「いいですね」。使う方向性が決まった。
 岩代さんがオリジナル曲を作り、演奏しながら山田監督の反応をみて仕上げ、「これでいきましょう」とようやく「OK」が出た。

映画の一場面。沢田研二さんが主役を務め、宮本信子さんが妻を演じた=ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会

 岩代さんの父浩一さんは作曲家で生前、俳優の故森繁久彌さんと親交。藤原書店が「森繁久彌コレクション」を刊行した際、岩代さんも「月報」に二人の思い出を寄稿しており、関係者が書店に集まった際、おりんを鳴らしていた。
 山田監督と初めての共同作業となった岩代さんは「監督が父と同世代で父の面影を見るような思いで仕事をさせていただいた。監督のOKがなかなか出ない中、父と森繁さんが救いの手を差し伸べてくれたのかもしれない。ご縁が重なって人の輪が広がった。おりんにはある種の魂が宿っている」と話している。
 岩代さんは「Fukushima 50」(二〇二〇年)で日本アカデミー賞優秀音楽賞、国際映画音楽批評家協会賞を受けるなど映画音楽の第一線で活躍。「新聞記者」「名も無き日」も手掛けている。

山口久乗の特注品で収録

 今回の音楽収録の舞台となったのは学術書から社会派まで幅広い本を出版する藤原書店のサロン。作家や芸術家らが交流する場に、音階を調律したおりんでつくる楽器が置かれてある。
 おりんの楽器は藤原良雄社長(72)が二〇〇六年に富山県高岡市内を旅した際、おりんの音色に触れて「心にしみる」として、楽器を製作する山口久乗に特別注文したものだ。
 藤原社長は収録時の様子について「山田洋次監督と岩代太郎さんがこれでいけそうだなと語りあっていた。おりんの音色には人の心の乱れを癒やす力があると思う。いろんな不協和音も、この音色が最後は調和してくる。多くの人が共有すべきもの」と話している。
 山口久乗の山口敏雄会長(77)は「キネマの神様は松竹映画百年を記念した特別な作品。大切な場面に、おりんの音色を使っていただけたことは光栄なこと。その音色は普遍的なものがあり、それが山田監督、岩代先生の心に響いたものだと思う。心から誇りに思う」と語っている。

【メモ】キネマの神様=原田マハ原作。125分。ギャンブル好きで借金を抱える男が、かつて情熱を注いだ映画、脚本作りを通じて再生する人間ドラマ。新型コロナウイルスに感染し、亡くなった志村けんさんの代わりに沢田研二さんが晩年、菅田将暉(まさき)さんが若い頃を演じている。


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