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周囲を涙腺崩壊させた木村敬一の金メダル…これほどに愛される理由

2021年9月4日 10時31分

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男子100メートルバタフライ決勝でレースを終え、抱き合って喜ぶ金メダルの木村敬一(左)と銀メダルの富田宇宙

男子100メートルバタフライ決勝でレースを終え、抱き合って喜ぶ金メダルの木村敬一(左)と銀メダルの富田宇宙

◇ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記
 3日夜、東京パラリンピック競泳男子100メートルバタフライ(視覚障害S11)の決勝を終えた直後の東京アクアティクスセンターは、木村敬一(30)の金メダルに涙腺崩壊した関係者であふれていた。放送したNHKも3人の解説者やリポーターらが涙で声にならず、中山果奈アナウンサーが「まだこの後に(競技が)ありますので、そのためにもここで涙をグッとこらえていただきたい。解説に向けて、すみません」と、必死に落ち着かせようとしたほどだった。
 レースはパラリンピック競泳史上初となる日本勢のワンツーフィニッシュ。ところが2位の富田宇宙(32)さえが順位を知ると「金メダルを目指して銀メダルなので本当は悔しがらなければいけないけど、木村君が金メダルを取ってくれたことが本当にうれしいし、そこに続いて僕がゴールできたことも本当にうれしい」と、隣のレーンで雄たけびを挙げる木村に抱きついて祝福した。
 木村がこれほどに愛されるのはなぜか。物心ついてから視力を失った選手が多い中、2歳でほぼ全盲となった木村はプールで泳ぐ選手の姿さえイメージできない。それでも五輪の競泳で金メダル5個を獲得したイアン・ソープ(豪州)に10歳であこがれて「僕もイアン・ソープになりたい」と一大決意。教員を辞めてまで木村の指導にかけた寺西真人コーチらから文字通り「手取り足取り」の指導を受けながら、世界の頂点を目指した。
 パラリンピックは前回までの3大会で銀3個、銅3個。金メダルの大本命と言われながら手が届かなかった。すると前回のリオ大会後に単身で渡米して武者修行。米国には知り合いもツテもなく、英語もほとんど分からない上に目も見えない。家族や所属の東京ガスは当然反対したが、最後は「一から再スタートしたい」の強い思いに折れた。母親の同行さえ拒否した渡米には、現地のコーチも最初は「冗談だろ」と驚いたという。
 2年間の米国生活を経て獲得した金メダル。木村は「この日のために頑張ってきたこの日って、本当に来るんだなと。特にこの1年はいろいろあって、この日は来ないんじゃないかと思っていたんで…。家に帰って思い切り泣きたいです」と話した。コロナ禍で大会の開催さえ危ぶまれた中で訪れた「この日」。その思いも知るからこそ、周りも泣いた。
 滋賀県立盲学校の先輩で、小学生だった木村と寮で寝起きをともにしたロックミュージシャンの香介が木村を思って作った「永遠の扉」の歌詞には、このような一節がある。
 『「夢」を「現実」に変えるために この道(コース)を進む いつの日か超えていける事を 信じてる 誰よりも』
 永遠の扉は開いた。
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまで中日ドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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