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1通の手紙から始まった閉会式の『ノーサイド精神』少年の思いは国立でも花を咲かせた【満薗文博コラム】

2021年8月9日 06時00分

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東京五輪の閉会式で火の消えた聖火台

東京五輪の閉会式で火の消えた聖火台

 8月8日。日本列島は南からと東から、2つの台風に挟まれて、波乱の第32回東京オリンピックが終わった。
 波乱―。世界中がコロナに支配され、7月23日の開幕から、ほぼ無観客の中で挙行された前代未聞の17日間だった。
 開催か否か、賛否の声がうずまく中で始まった大会を、声ではなく、旺盛な精神力、体力で支え続けたのはスポーツの力だった。観衆のいない中で、自らを鼓舞して戦った彼らに、敗者はいない。みんなが勝者だった。
 よく聞いた「コロナに打ち勝った証し」は無責任な人たちが放った言葉だが、実際に身をもってそれを証明しようとしたのはアスリートたちである。困難を乗り越えたのは、勝者、敗者を超えたアスリートたちの肉体と精神だった。
 コロナにじゅうりんされ、どこかに置き忘れられるように、影を薄くしていた「アスリートファースト」を取り戻したのは、彼ら自身のプライドと頑張りである。コロナ禍に加えて猛暑、無人。この夏、かつての五輪以上に過激な戦いに耐え抜いた戦士たちに拍手を送ろう。
 この夜、206の国と地域(難民選手団を含む)からやって来たアスリートたちが、国と地域の垣根を越え、開会式とは違い、バラバラになって入場した。閉会式は、戦い終えた戦士たちが笑顔で集う場なのだ。
 近代オリンピックの創始者、ピエール・ド・クーベルタン(仏)が目指した、この「ノーサイド」の精神が具現したのは、第2次世界大戦後の混乱が、まだ完全には収束していなかった1956年の第16回メルボルン大会からである。
 初めて南半球で開かれた、この大会期間中に、地元の少年から、大会組織委員会に1通の手紙が届く。開会式と違って、戦いを終えた選手たちは、期間中に帰国の途に就く者も多い。広いスタジアムが寂しくなってはいけない、の思いも込められたものである。だから「閉会式は、世界が一つの国になって入場してほしい」というものだった。少年の思いは、以後、現在に至るまで継承されて、無観客の、ここ国立競技場でも、ささやかな花を咲かせた。
 外は嵐、コロナの猛威はまだ続く。特別な年の戦いを終えたアスリートたちからバトンを受けて、これからも、コロナと人間たちの闘いは続く。
 2021年8月8日夜。五輪旗は24年の開催地・パリへと渡り、無観客の国立競技場で、22時14分、聖火は静かに消えた。(スポーツジャーナリスト)

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