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「皇室の名品」の国宝指定 観光立国政策受け活用へ

2021年8月7日 05時00分 (8月7日 11時38分更新)
国宝に指定される狩野永徳の「唐獅子図屛風」(桃山時代、宮内庁提供)

国宝に指定される狩野永徳の「唐獅子図屛風」(桃山時代、宮内庁提供)

  • 国宝に指定される狩野永徳の「唐獅子図屛風」(桃山時代、宮内庁提供)
  • 元寇(げんこう)を描いた「蒙古襲来絵詞」(鎌倉時代、宮内庁提供)
  • 中世の信仰や暮らしを伝える「春日権現験記絵」の一部分(鎌倉時代、宮内庁提供)
  • 華麗で意匠性の高い伊藤若冲の「動植綵絵」(江戸時代、文化庁提供)
 七月の文化審議会答申で、宮内庁が管理する狩野永徳の「唐獅子図屛風(からじしずびょうぶ)」や伊藤若冲(じゃくちゅう)の「動植綵絵(どうしょくさいえ)」など五件の国宝指定が決まった。国は皇室由来の貴重な美術品の地方展開を推進。「皇室の名品」は、二〇二三年に石川県で開かれる国民文化祭でも披露される見通しだ。
 国宝に指定されることになった皇居・三の丸尚蔵館所蔵の美術品。かつては皇室で代々継承された「秘蔵の品々」だが、近年は、政府の観光立国政策を受け、保存から活用へシフトしている。
 宮内庁によると、対象の美術品は、過去には皇室が所有する「御物(ぎょぶつ)」として、一九八九年の昭和天皇の死去に伴って上皇さまらが継承。その後、国に寄贈された大量の品々のうちのごく一部だ。寄贈後は同庁が三の丸尚蔵館で管理してきたため、国内外での散逸の恐れもなく、文化財の指定はされてこなかった。
 美術品は皇室が修復に関与したことも。「春日権現験記絵(かすがごんげんげんきえ)」は劣化が進み、二〇〇四年から十三年かけて修復。絵巻物をとじるひもや表紙には、上皇后美智子さまが皇居で育てた日本純産種の蚕「小石丸(こいしまる)」から採った絹糸が使われた。
 こうした美術品や皇室関連の施設が転機を迎えたのは、政権復帰した安倍晋三前首相の時代。外国人観光客の増加に伴い、政府は積極的な公開や活用にかじを切った。
 宮内庁は皇居や京都御所などの一般公開を拡充。江戸城天守の復元模型と展示施設を約一億円かけて皇居・東御苑に設置するなど次々と観光対策が展開され、「皇室が客寄せに使われているのではないか」と不満を漏らす同庁関係者もいた。
 三の丸尚蔵館は収蔵、展示スペース拡大のための建て替えが進む。地方での収蔵品の展示にも積極的に協力。今回の指定対象の「蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)」などは、七月二十日から福岡県太宰府市の九州国立博物館で始まった特別展「皇室の名宝−皇室と九州をむすぶ美−」で公開されている。
 宮内庁は、国宝指定による保管態勢への影響は特にないとしている。同庁幹部は「国宝への指定で、皇室ゆかりの美術品の持つ価値が、今まで以上に分かりやすく伝われば良い」と話した。

 地方で展覧会計画

 2025年度の全館完成を目指す三の丸尚蔵館の収蔵品活用について、宮内庁や文化庁などのワーキングチームは昨年、地方展開の強化に向けて(1)国立博物館での展覧会(2)国民文化祭での特別展を柱に、移行期間中の24年度まで年間4カ所以上で展覧会を開く−などとする報告書をまとめた。日本文化の理解や地方創生の促進にもつなげたい考えで、石川県での国民文化祭でも、国立工芸館(金沢市)と連携した展覧会の開催が計画されている。

 超国宝の無冠の帝王

 辻惟雄東京大名誉教授(美術史)の話 いずれも「超国宝」というべき作品だ。皇室が宮内庁に寄贈した時点で国有財産だが、「旧御物」として厳重に管理され、国宝にも重要文化財にも指定されない「無冠の帝王」だった。国宝指定で市民が親しみやすくなる一方、皇室が所有した経緯自体に歴史的意義がある「ロイヤルコレクション」が通常の「ナショナルコレクション」に格下げされる印象も受ける。また所管が文化庁になると、政治家による外交への利用などの要請を断りにくくなるのではないか。紙や絹に描かれた書画は、度重なる展示や地方・外国への移送で傷みやすい。保存のために精巧な複製を作るなど対策を考える必要がある。

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