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<備える> 迫り来る「新しい公害」 行き場なき建設残土の果て

2021年8月2日 05時00分 (8月2日 05時00分更新)

土石流の起点となった盛り土の崩落部分=静岡県熱海市で、本社ヘリ「あさづる」から

 災害リスクを顧みずに大量に持ち込まれた盛り土は降り続いた雨で崩落し、地域住民の命や生活を奪った。静岡県熱海市伊豆山(いずさん)で七月に発生した土石流災害。起点となったのは、谷あいを埋めた盛り土だった。専門家は危険な盛り土を抱える地域の把握が急務だと訴える。 (梅田歳晴)

◇種類は二つ


 盛り土は、丘陵や山の谷間を埋め立てる「谷埋め型」と、斜面に土を盛って平らにする「腹付け型」の二種類がある。高度経済成長期における宅地開発や道路整備などの過程で全国各地で造られてきた。一方で、阪神大震災や中越地震、東日本大震災などで宅地の盛り土が崩落する被害が相次いだ。最近では豪雨による崩落も確認されている。
 京都大防災研究所の釜井俊孝教授(応用地質学)は「宅地の谷埋め型盛り土と、今回の土石流の起点となった谷筋の盛り土の問題は、全く別の話」と説明する。宅地の盛り土は、宅地造成等規制法に従って造られており、排水機能を設けることが義務付けられている。「今回の崩落起点の盛り土には、排水機能自体がなかったとみられる」と指摘する。

土石流現場の崩壊メカニズムについて話す釜井俊孝教授=京都大防災研究所で

 県によると、土石流で流れた土砂は推定五万五千五百立方メートル。その大半が、起点部にあった盛り土とみられる。市への届け出を超えた量の建設残土を含む土砂が盛られ、被害を拡大させた可能性がある。県は、チームをつくって土石流が発生した原因の検証を進める。釜井教授は「宅地の盛り土問題を、数十年たって噴き出している『遅れてきた公害』と言うなら、建設残土の問題は『これから来る新しい公害』だ」と警告する。
 二〇一八年七月の西日本豪雨では、京都市伏見区の大岩山山頂に不法投棄された建設残土が流れ出し、沢を伝ってため池を埋め、宅地直前まで迫った。現在も土地管理者による安全対策工事が続いている。同市の担当者は「直下に人家があったが、直接的な被害がなかったのは幸運だった」と話した。
 大津市栗原の民間残土処分場付近では一一年ごろ、たびたびのり面の崩落が発生した。一時、土砂が川をせき止め、ダム湖のような状態となった。一三〜一五年に市が行政代執行し、応急処置を取った。大阪府豊能町では一四年二月に山の際に積まれた建設残土が崩落し、近くの府道や田畑の一部を覆い、市民生活に影響が出た。
 盛んに行われる建設工事に対し、残土の使い道は限定的だ。釜井教授によると、昔は海岸の埋め立てなどに使われていたが、現在は需要がほとんどなく、「捨て場に困っている状況」。その中で、不適切に山林などに捨てられるケースがある一方、再利用できる残土の処分を直接規制する法律はない。条例を制定している自治体はあるが、行政の権限は強くなく、指導を経て罰則が科されるまでのスピードも遅いという。
 釜井教授は、罰金などの罰則ではたいした抑止力にはならないとみる。条例ではなく、全国一律に規制の網をかける法律を制定し、規制を強める必要性に言及。残土の排出元から処分先まで追跡できるような仕組みの構築を提案し、「国が全国調査する際、自治体に残土処分場所の危険地域の報告を求め、危険な場所が分かる『残土処分地マップ』を作成した方がよい」と話す。

◇約5万カ所

 国土交通省によると、盛り土造成地は今年三月時点で全国に約五万カ所ある。調査は大規模宅地に限られており、今回の崩落起点のような場所は対象外。赤羽一嘉国交相は盛り土造成地を総点検する意向を示している。
 名古屋工業大の松岡元(はじめ)名誉教授(土質力学、地盤工学)は「地盤災害はほとんどが水絡み。今回は自然の水の循環システムの一部で起こり、人間が自然の排水システムを侵したことが原因」と説明。「自然の谷筋に着目し、自然の水の流れを遮るものが設置されていないか、排水機能が十分確保されているかを点検することが重要だ」と訴えた。
 松岡名誉教授によると、谷筋の盛り土は今回のような山林の中だけではなく、斜面を走る道路の土台などにも存在している可能性がある。その盛り土の上に山林が続き、大きな高低差があるか、豪雨時に大量の雨水が貯留されそうか−などを住民自らがチェックすることも必要と言う。「地域を調べ、行政に至急伝えて対処をお願いするなどの対応をすることで、自宅のリスクに対する認識も変わり、いざという時の率先避難につながる」と話した。

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