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東栄町リコール 地域医療の行く末は

2021年7月26日 05時00分 (7月26日 05時00分更新)
 伝統芸能「花祭り」の里で知られる愛知県奥三河地方の東栄町で八月八日、地域医療のあり方を問う町長選が投開票される。
 一九六一年に開院した旧東栄病院は一時七十床を備え、隣接する静岡、長野県からも患者が訪れる医療拠点だった。しかし、急速な人口減や医師・看護師不足が響き、収益は悪化の一途。町は徐々に体制を縮小させ、二〇一九年に診療所に転換した。同年に救急を、二〇年に人工透析をやめた。
 一九年度には町税収入とほぼ同額の二億八千万円を町予算から繰り入れたが、入院患者数(一日平均)は四年前の三割強である七・八人にとどまった。来年七月には病床をゼロにし、外来や在宅医療に専念する計画で、救急や透析などは車で四十分ほどの新城市や隣県の病院に委ねる考えだ。
 医療体制の縮小に反対する住民団体は町長リコール(解職請求)など署名運動を展開した。今年六月に住民投票の実施が決まったが、前町長は回避し辞職。町長選は前町長と、住民団体が支持する元町長の一騎打ちとなる公算だ。
 住民団体側は国や県の金銭的支援、へき地への医師派遣制度などを活用すれば、病床を残し、透析や救急の再開も可能だと主張する。前町長側は人口減や財政難で「それは非現実的」と強調する。
 高齢社会を迎え、医療資源の効率的な配置は全国的な課題だ。国は一九年、診療実績などを理由に四百二十四病院を名指しして再編や統合を促した。各地で検討が進む。片や、宮崎県椎葉村や高知県梼原(ゆすはら)町など東栄町と同じ人口三千人前後の町村でも、地元の総意として病院を維持している。
 椎葉村は村予算から年一億円強を持ち出しているが、村外の病院まで車で一時間は要し、村民からの依存、信頼は厚い。一日平均の入院患者は十五人、外来も八十人ほどで、地域に欠かせぬ存在だ。
 東栄町では、十分な説明や合意なく矢継ぎ早に医療が縮小されることへの不安、反発もあろう。直接請求を経て町長選に持ち込まれたことは、民主主義が健全に機能した好例として評価したい。
 医療体制を維持するため、町民はどの程度の負担なら許容できるのか、そのために受けられなくなる行政サービスはないのか−。各候補は分かりやすく論点を示し、町の将来像や、あすの地域医療を思い描ける選挙戦を望みたい。

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