矛盾だらけでモヤモヤする東京五輪開幕前夜に…ラウェイファイター渡慶次幸平が見せた『痛快』勝利
2021年7月23日 17時27分
痛くて心地よい。矛盾するが「痛快」。7月22日夜。格闘家の渡慶次幸平(33)は、最も過激な立ち技とも呼ばれるミャンマーの国技「ラウェイ」のリングに1年9カ月ぶりに立ち、右拳でジョナタン・バイエス(32)をマットに沈めた。170センチの日本人が、190センチの米国元海兵隊員をKO。「ゴリアテとダビテ」の連想させる戦闘だった。
「いいっすね。勝ったけど顔がめちゃ痛い。やっぱこれっすね。きれいに闘えないし、きれいに勝つ気もない。勝っても負けても痛いのがラウェイ。いいっすね」
渡慶次は腫れた顔を見せながら、喜々とした言葉を次々に吐き出した。記者には正直よく分からない領域だが、確かに痛快だった。自然と頬が緩んだ。
ファイトマネーなどを充ててミャンマーで学校再建、子ども支援をする渡慶次を5月に取材、記事にした(下記の記事リンク参照)。取材後、コロナ禍でストップしていた試合が再開した時に観戦する約束をした。
本場では、昨年12月を最後に国技は開催されていない。2月に起きた軍によるクーデターで国内も混乱、コロナは拡大している。主催者によると、ミャンマーの大手メディアと通信会社が日本で開催された今大会の映像利用を申し入れ、現地でテレビ放送する計画があるという。渡慶次は約4700キロ先の国を思い、言った。
「今、ミャンマーではラウェイをやっていないので、何とか放映されてほしい。日本で開催されて盛り上がっていることが分かれば、1人でも多くの希望になればと思う。僕はこの競技を通して、ミャンマーを盛り上げていきたい。1人でも多くの子ども教育支援や笑顔を生み出す。それが、僕の人生の使命だと思っている。一生掛けてやっていきたい」
口癖は「きれいごとを形にする」。再建した3つの学校は、民主、軍事どらちの政権でも忘れ去られ、見捨てられていた。政権が代わって支援活動への不安はないかと聞いた時も「悪いことをしているわけではないし、止められる道理もないですよね。困っている子どもがそこにいるんですから」と真っすぐ言葉に力を込めた。
実は…矛盾だらけでモヤモヤする東京五輪開幕前夜に、この男の戦う姿を見たかったという思いもあった。腫れた顔は痛々さではなく誇らしさに満ちていた。そして、耳にした言葉も「痛快」だった。
「最後の右フックはラッキーパンチですね。思い切り振ったら当たった(笑)世のため人のために闘っているからあのラッキーパンチが出る。僕が私利私欲にまみれていたらあのパンチ出ないと思う。徳を積みました(笑)」
目撃したのは確かに「きれいごとを形にする」カウンターパンチだった。(占部哲也)
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