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昨夏の東京五輪延期は序の口だった… 女性蔑視問題に始まる辞任ドミノ、収束の見えないコロナ禍 そして開会式の幕は上がる

2021年7月23日 12時10分

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東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の武藤敏郎事務総長(左)と橋本聖子会長

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の武藤敏郎事務総長(左)と橋本聖子会長

◇ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記
 ここに、いくつかの取材メモがある。五輪、パラリンピックの東京開催が決まってから、その運営を担当する大会組織委員会の武藤敏郎事務総長(78)と数回の懇談を重ね、その内容を記録したものだ。東京五輪の開会式を控え、あらためて見返してみた。例えば昨年8月、五輪が1年延期に至った経緯を武藤事務総長はこのように話している。
 「(2020年)3月22日のIOC(国際オリンピック連盟)バッハ会長と組織委・森会長との会談では、バッハ会長の提案は『延期を含めてどうするか、4週間で話し合って結論を出そう』だった。急には難しいので、根回しをしてからという判断だったと思う。そうしたら2日後の24日に安倍総理が『中止を避けるためには延期しかない』と自分から延期をバッハ会長に提案し、さらにその期間を『向こう1年くらいが限界だと思う』と言った。了承したバッハ会長も総理が言ったということで安心したと思う。時期については春も検討したが、春はプロスポーツもいろいろあり、曜日も大切ということで、結果的には開会式は7月23日しか選択肢がなかった」
 元大蔵・財務次官で日銀副総裁なども歴任した武藤事務総長は、さらに「やるとなったからには、何のために延期したかというコンセプトが大切になる」「現時点で重要なのはコロナ対策と財政面のコスト削減」「スポンサーには契約の1年延長に加え、さらなる拠出金をお願いして回った。各社いくらにするかは電通に任せているが、お願いベースで強制はできない」「五輪の機運を上昇させたいが、組織委が言っても響かない。コロナ対策が求められている時に経済効果とか言っても、それは医療支援に回せとなる」など、苦しい胸の内を明かしている。
 しかし、今思えばこれらは序の口だった。その後、女性蔑視発言を問題視された森喜朗会長は辞任に追い込まれ、収束が見えない感染拡大に競技のほとんどは無観客となり、コロナ対策のバブル方式は「穴だらけ」と批判され、機運は冷めていくばかりだった。東京五輪のロゴ入りバッグを持っていた組織委のスタッフが電車内で小突かれたり、制服を着て歩いていたボランティアが非難の言葉を浴びせられた例もあるという。
 さらに今月19日には、開会式の作曲を一部担当した小山田圭吾が過去に障がい者いじめを雑誌に自慢げに語っていたことから辞任し、絵本作家・のぶみさんも学生時代の教員いじめ発言で文化プログラム参加を20日に辞退。22日には開閉会式のショーディレクターを務めていた小林賢太郎さんがナチスドイツのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)をやゆするコントを過去にしていたことから解任された。
 小林さんはタレントの容姿への侮辱発言で五輪開閉会式の演出統括を辞任した佐々木宏さんを継ぐ形で、式典全体の調整役となっていた。五輪には、1972年ミュンヘン大会でイスラエル選手団11人が選手村でパレスチナゲリラに襲われて犠牲となった惨劇の歴史がある。組織委がいくら「小林氏の過去のことは知らなかった」と弁明しても通じるわけがない。7年間準備してきた式典の演出が延期とコスト削減で白紙に戻され、時間的余裕がなかったことを差し引いても、これら一連の問題は差別や歴史に対する日本の意識の低さを世界にさらす負のレガシーを残してしまった。
 私のメモには、武藤事務総長の次のような言葉も記されている。
 「世界大戦の前には幻のオリンピックがあった。今回中止となると、3回のうち東京が五輪を実施できたのは64年大会だけとなる。そんな不名誉は避けたいというのも本心としてある」
 東京が1940年大会の実施を返上するに至るシーンは、NHKが2019年に放映したドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」で、このように描かれている。
 日中戦争の勃発で世界中から日本に非難が集まり、国内でも「この非常時にお祭りの五輪などをやっている場合か」と声が上がる中、後に64年大会の組織委事務総長となる田畑政治(阿部サダヲ)は葛藤を繰り返した末に、招致に尽力した嘉納治五郎(役所広司)に訴える。
 「返上してください。駄目だ、こんな国でオリンピックをやっちゃ、オリンピックに失礼です」「今の日本は、あなたが世界に見せたい日本ですか」
 コロナ禍で開催される異例の五輪。中止を避けるために延期を提案した現組織委名誉最高顧問の安倍晋三前首相は、バッハ会長らと同席するはずだった開会式を欠席する。今の私たちは、この五輪でどのような東京を、そして日本の姿を世界に見せればいいのだろうか。答えは出ないまま、幕は上がる。
   ◇ ◇ ◇
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまで中日ドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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