本心<39>

2019年10月16日 02時00分 (5月27日 03時48分更新)

第三章 再会

「いえ、直接には。ただ、名前は母から聞いています。」
「かなり親しくされていたようです。」
「――そうみたいですね。……」
「彼女にも、 V F (ヴァーチャル・フィギュア)の学習に参加してもらえれば、石川様との会話も、深みが増すと思います。」
 僕は、その意味するところを確認するように彼女の目を見ながら、曖昧に頷(うなず)いた。
「こちらは、十四年前のお母様の人格グラフですね。この頃は、少し複雑ですが。」
「その時期は、色々な会社に派遣されて働いてましたので。」
「ええ、そうみたいですね。とにかく、……こんな風に、お母様の過去三十年間が帯状に示されていますので、ご興味のある年代を選んでいただければ、その断面が表示されて、その時の人格の構成が見られるようになっています。金太郎飴(あめ)みたいなものですが、ただし、断面がすべて違う金太郎飴です。」
「……なるほど。」
「三好さんだけではなくて、お母様と親しい関係にあった皆さんに学習を手伝ってもらえれば、一層本物に近づきます。友人から聞いた意外な面白い話などを話せるようになりますので。お母様のご関心のあったニュースを日々学習させるには、別途、料金が発生しますが、それを申し込んでいただけると、石川様との話題の共有もスムーズになります。ほとんどの皆様が購入されるオプションで、お勧めしますが、どうされますか? 一つのニュース・ジャンルにつき、月額三百円です。」
 そういうビジネスなのか、と僕は今更のように納得した。<母>をより本物に近づけるためのオプションが増えるほど、追加課金される仕組みだった。
 僕はひとまず、一般的なニュースと、旅行関係の情報だけを購入することにした。セット割引も提案されたが、意図的なのだろうかと疑いたくなるほど複雑で、話の途中で理解しようとする気力をなくした。
 野崎は、支払の手続きまでを済ませると、段階的に、もう打ち解けたといった口調で、
「石川さんは、ご自身の“余命管理”はされてます?」
「もちろん、……ええ。仕事柄、保険に入る必要があるので。」
(平野啓一郎・作、菅実花・画)
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