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買い物難民対策 広がる「新」移動販売

2021年7月10日 05時00分 (7月10日 05時00分更新)

 中央アルプス南端にある馬籠宿(岐阜県中津川市)に続く曲がりくねった中山道を軽トラックが走り抜けていく。移動スーパー「とくし丸」の車両だ。
 日々の買い物に困っている人たちを助けたいと徳島市で二〇一二年に創業した。今では各地の地元スーパー百四十二社と提携し、全都道府県で約八百五十台が稼働する。中津川市ではスーパー「スマイル」が七月に五台目を導入した。県境を越えて、長野県まで商品を届ける。
 トラックの運転手は、個人事業主でもある販売パートナーだ。顧客の元へ出向き、個人宅の駐車場や庭などで店開きする。数人集まれば、近くのドラッグストアなどの駐車場を借りることもある。
 三方に開く荷台には千点以上の商品が並ぶ。価格は配送代として一点につき一律十円上乗せする。その場にない物でも要望があれば、次の配送時に持って行く。
 商品はスーパーから借りてきた形なので、売れ残りは返品して店舗で売り切ることができる。従来は売り手が全て買い取らねばならず、利益が出にくかった。
 本部は、顧客開拓支援のほか、販売パートナー同士をネットの掲示板でつなげ、情報交換できるシステムも整えた。地元スーパー、販売パートナー、本部という三者の力が絶妙に合わさった新しい仕組みだ。地域に浸透してきたこともあり、最近では地元の警察署から委嘱された防犯パトロール活動にも乗り出している。
 農林水産省の二〇一五年の推計によると、自宅から店まで五百メートル以上離れ、自動車利用が困難な六十五歳以上の「買い物難民」は約八百二十万人いる。今年三月の同省の全国調査では、回答したうちの八割以上の市町村が「対策が必要」としており、状況は深刻だ。
 「篤志」の意味も込めた、とくし丸の活動は、社会問題の解決とビジネスを両立するソーシャルビジネスの一つだが、ネットスーパーなどのようにデジタルを介さない点で、「古くて新しい」パターンともいえる。
 「買い物難民」の多くが「デジタル難民」でもあることを考えれば、人(売り手)が人(買い手)に会いに行くというシンプルな形が合理的なのかもしれない。非デジタル手法の中にも、多くのソーシャルビジネスのヒントがあることを示唆している。

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