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いつしか政府主導で「開催」へ歩き始めた東京五輪 人々の心を離れ、”糸の切れかかった”凧に【コラム】

2021年6月23日 16時32分

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東京五輪のモニュメント

東京五輪のモニュメント

【コラム・光と影と】
 じいさんはスキップしながら、東京の外れ、葛飾区の馴染(なじ)みの大衆居酒屋に駆け込んだ。6月21日の夕暮れだった。この日から「緊急事態」は「蔓延(まんえん)防止」に戻り、短時間とはいえ、外で酒にありつける。後で書くが「行きはヨイヨイ帰りはコワイ怖い」だったのだけど。
 自慢ではないが、僕は、人知れず「自己最長記録57日」を樹立していた。4月25日から、飲み屋で酒の飲めない「緊急事態宣言」が発令されるというので、前日の同24日、押っ取り刀で駆け付けたのだった。実に58日目の「外飲み」である。20歳の学生時代からおよそ半世紀、これほど長期にわたって酒を口にしなかったことがない。だから、自己最長記録。
 見知った顔が、創業73年、年季の入った長い板のカウンターで顔をほころばせていた。隣の男に話し掛ける。「あと1カ月もしたら開会式だねえ」。彼は応えた。「何かあるんですか?」。7月23日が、東京オリンピックの開会式であることを、彼は知らなかった。いや、知っていたのかもしれないが、コロナ禍の今、どこかに置き忘れているのかもしれない。その隣の中年男も無言だった。その後、この「高砂家」でオリンピックが語られることは無かった。
 2020年東京オリンピックは、この店でも、幾人もの人々の心を離れ、糸の切れかかった凧(たこ)になっていたのだろうか。開催の可否が、多くの人々に問われることなく、いつしか政府主導の「開催」で歩き始め、この原稿を書いている最中に「大会会場内の飲酒は禁止」が報じられた。都内全域の店に、大幅な酒提供の時短を求めながら、プランとはいえ、一時的にせよオリンピックの場でアルコール「可」が論じられていたおかしさ。パンデミックの今でも、開催を待つ人々もいるのは承知している。「いざ、やることが決まったら、五輪ムードはどんどん高まって来るさ」の声もある。
 だが、しかしである。中学3年の時にあった1964年東京オリンピックの思い出を宿し、後年4度のオリンピック取材に出向き、ここまで数冊の「五輪本」を出したこの老記者が知る五輪とは、開幕前夜のムードが明らかに違う。そんなことは知りながら「2020TOKYO」の行方をこの目に焼き付けようと、至便を求め、大手町の自衛隊会場で1回目のワクチン接種は既に終えた。
 スキップしながら行った居酒屋だが、問題が山積する五輪の前途を思いながら飲んだら、少量で酔い、嘔吐(おうと)した。老記者の帰りの足取りは重かった。(満薗文博・スポーツジャーナリスト)

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