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<学校ICT時代> コロナ下の活用

2021年6月20日 05時00分 (6月20日 05時00分更新)
 小中学生に1人1台の学習端末を配備する国の「GIGAスクール構想」で、学校へのICT(情報通信技術)導入が慌ただしく進む。新型コロナウイルス禍に伴う全国一斉休校を契機にオンライン教育への期待が高まる一方で、子どもが端末を扱うことへの戸惑いや教育格差の拡大を懸念する指摘も。教育現場の変化に私たちはどう向き合えばいいのか−。2人の専門家に聞いた。

オンライン教育格差懸念 法政大社会学部准教授 多喜弘文さん(38)

多喜弘文さん

 −コロナ下のオンライン教育で格差が生じていたとの分析を昨年公表した。
 内閣府の調査を基に、昨春の一斉休校中に小中学生が学校のオンライン教育を受けたかどうかを早稲田大の松岡亮二准教授と共同で分析しました。すると、それぞれ世帯収入が高い、三大都市圏に住んでいる、親が大学を卒業している人の方がそうでない人よりも、学校のオンライン教育を受けた割合が高かったことが分かりました。
 −どういうことか。
 コロナ禍という非常時に、本人が選べない「生まれ」による教育機会の格差が生じていたということです。オンライン教育の環境整備が急ピッチで進む中、格差への対応は平時より後手に回る恐れもあります。ハード面の整備だけでなく、不利な児童生徒の学習機会を保障する対策が必要です。
 −なぜ「生まれ」による格差は問題なのか。
 近代社会ではどのような教育を受けるかはその後の人生の歩みと密接につながっています。その機会が本人の選べない「生まれ」と結び付かないよう十分に保障されなければなりません。
 −対策は。
 オンライン教育の環境整備には教員の努力だけでなく、保護者や地域の理解が必要となります。現状では社会経済的に豊かな地域の方が子どもの端末への親和性も高いことが分かっています。学校の「頑張り」とは無関係に有利・不利を生むこうした要素を可視化して、遅れやすい学校を必要に応じてサポートする議論が必要です。遅れている学校にペナルティーを与えるのではなく、「支援する」という発想です。
 そのためにはまっとうな社会調査データを基に議論すること。端末の配備率も大事ですが、数字の背後には人々の日常があります。どのように授業で使われているか、なぜ使われないのか、それが地域の産業や家庭の社会経済的な条件とどう関係があるのかなどを可視化し、根拠に基づき政策を決めていくことです。
 −導入する端末やアプリなど自治体や学校の選択肢が広がり、学びの中身も「個別化」がうたわれている。
 学びの個別化もアプリの導入ももちろん悪いことではありません。しかし、昨今頻繁に用いられる「公正に個別最適化された学び」のような表現は、それ自体が自動的に平等化をもたらすような錯覚を与えます。また、多様な選択肢があると「選んだのはあなたですよね」という自己責任論が通りやすくなります。ですが、その選び方に「生まれ」に基づく格差が結び付いていたら、どうか。学びを提案してくれるのがAI(人工知能)の場合、誰が責任を取れるのか。教育格差を継続的にデータで可視化しつつ、多様化と格差が結び付かないように制度設計していくことが必要です。
  (聞き手・河原広明)

 たき・ひろふみ 1982年、京都市生まれ。同志社大大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。東京大社会科学研究所助教、法政大専任講師を経て、2016年から現職。専門は社会階層論、教育社会学、比較社会学。主著は「学校教育と不平等の比較社会学」。

日常のデジタル化が先決 国際大グローバル・コミュニケーション・センター准教授 豊福晋平さん(54)

豊福晋平さん

 −小中学校で一人一台の環境が整いつつある。
 まずは「学校日常のデジタル化」を進めてほしい。家庭との連絡手段として活用し、児童も教員も使い方に慣れていくのです。昨年の一斉休校時、家庭とほとんど連絡が取れなくなった学校がありました。授業でどう活用するかはその次です。
 −日常化は授業からではない、と。
 最も効果が見込めるのがコンテンツではなくコミュニケーションの用途。これまで紙で配っていたプリント類をデジタルに置き換えるだけで、利便性が変わる。省資源にもなります。
 −どんな使い方が?
 最初は学校便りをメールに貼り付け、読んでもらう。慣れたら、アンケート機能の付いた簡単なフォームを送って、応答してもらう。子どもたちがキーボードの操作に慣れてからですが、授業の振り返りを打つのもいいですね。
 −端末の持ち帰りもスムーズになる?
 連絡がデジタルで届けば自宅で確認できないと困ります。さらに、自宅で学習端末を使って宿題をやるとなれば、保護者にも目的をきちんと説明して理解を得ないといけません。
 −授業の進め方にも影響しそうだ。
 子どもたちが試行錯誤しながら、思い思いに使えるようにしておくと、自分で学んでいきます。子どもたちの活用力を土台に、先生が授業でさまざまな使い方をするやり方が無理がないと思います。
 −トラブルの心配は?
 導入時期はわくわく期、やらかし期、安定期と進みます。期待を膨らませるわくわく期を過ぎると、すぐに「やらかし期」が来ます。メッセージの送信先を間違える、個別の作業中にイヤホンで音楽を聴く、など。端末を使って何をしたいのか、大方針を決めておかないと、禁止ばかりで使えない環境をつくってしまう。「やりたいと思っている人の足を引っ張らない」が大前提。自治体単位で教員同士が学び合う、オンラインの研修会もあり、そういった場を活用して横のつながりをつくり、対応策を学ぶのもいいと思います。
 −使い方のルールは。
 私はシンプルに「安全に、責任を持って、互いを尊重する」と伝えています。IDやパスワードの管理を徹底するのは「安全に」。端末の利用時間や使い方をコントロールするのは「責任を持って」。「写真を撮ってよいか、インターネット上に載せてよいか許諾を得る」は「互いを尊重する」と、関連しています。
 −当面の目標は。
 持ち帰りを進める▽各家庭でネットに接続する▽遠隔でつながる−が第一歩。単なる勉強道具で終わらせず、子どもに使い方を委ね、安心して使えるように整える。そのためにも保護者との丁寧な対話と説得が必要になるでしょう。 (聞き手・福沢英里)

 とよふく・しんぺい 1967年、北海道生まれ。横浜国立大大学院教育学研究科修了。95年から国際大グローバル・コミュニケーション・センター勤務。専門は教育心理学、教育工学、学校経営。「名古屋市立学校におけるICT環境整備・活用に関する検討会議」に有識者として参加。

ICT=Information and Communication Technology(情報通信技術)の略


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