本文へ移動

東名あおり・夫婦死亡4年 遠い公判、母の弱音 

2021年6月5日 05時00分 (6月5日 05時01分更新)
仏壇の前で手を合わせる萩山文子さん=静岡市清水区で

仏壇の前で手を合わせる萩山文子さん=静岡市清水区で

  • 仏壇の前で手を合わせる萩山文子さん=静岡市清水区で
 あおり運転の危険性を世に広く知らせることになった事故から、五日で四年。静岡市清水区の萩山嘉久さん=当時(45)=と友香さん=同(39)=夫婦は、神奈川県の東名高速道路で乗用車にあおられて停止させられた末、トラックに衝突されて亡くなった。この四年でドライブレコーダーが普及し、あおり運転は厳罰化された。一方、事故の公判は今も先が見通せていない。 (谷口武)
 「なんで私より先にいくだか。早すぎたっけ」。嘉久さんの母、文子さん(81)は手を合わせ、つぶやいた。仏壇には、嘉久さんの好物だったふ菓子やリンゴが供えてある。
 事故があったのは二〇一七年六月五日夜。嘉久さん夫婦と二人の娘は東京からの帰宅途中だった。パーキングエリアで駐車の仕方を注意した石橋和歩被告=当時(25)=から、一家のワゴン車は妨害行為を繰り返され、追い越し車線で停止を余儀なくされた。その後、大型トラックに追突されて夫婦は死亡。娘二人も軽傷を負った。
 文子さんにとっては「もうそんなにたったの」。三兄弟の末っ子だった嘉久さんは特にかわいかった。成人後も実家の近くに住み、頻繁に訪ねてきてくれた。
 事故後、文子さんは報道陣に訴え続けてきた。「車は凶器になる」「あおり運転のない世の中に」−。声は確かに届いた。警察は摘発を強化。昨年六月には道交法も改正され、あおり運転が「罪」として定められた。昨年の命日には墓前で法改正の報告ができた。
 しかし、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた石橋被告の公判は、大きな進展のないままだ。東京高裁は一九年十二月、懲役十八年とした一審・横浜地裁の裁判員裁判の審理の進め方に違法性があったとして、審理のやり直しを命じた。関係者によると、争点を絞り込む公判前整理手続きが長引き、裁判員裁判の公判期日は来年以降になるとみられる。
 被害者参加制度を使い、関東の法廷まで毎回足を運んでいた文子さん。この一年で外出も減り、膝が思うように動かなくなってきた。また行けるかはわからない。つい、弱音が出た。「最初からやり直しだからね。もう、裁判はいいよ」

◆進む摘発、県内2000件超 ドラレコ決め手に

 警察庁は二〇一八年一月、全国の警察にあおり運転の取り締まり強化や捜査の徹底を通達。静岡県警も取り締まりを強化してきた。
 道交法の車間距離保持義務違反での摘発は、一八年から三年連続で千件以上。外出自粛で交通量の減った昨年も、二千件以上を取り締まった。県警高速隊の担当者は「市民からのあおりの通報や取り締まり強化の要望は多い」と話す。
 昨年十月には、あおり運転をしたとして、改正道交法違反(妨害運転)の疑いで、磐田市のトラック運転手の男=当時(31)=を逮捕した。捜査の上で役立ったのがドライブレコーダー(ドラレコ)の映像という。男の乗用車が磐田市の国道1号バイパスで軽乗用車にクラクションを鳴らし、進路変更するなどした様子が捉えられていた。
 国土交通省が昨年十月、幅広い世代の男女九百十人から集めたネットアンケートでは、ドラレコの搭載率は54%。全世代で前年より上昇し、四十代以外はいずれも50%を超える。危険運転対策が主な理由という。県警も「自らの安全運転の意識を高める意味でも、ドラレコは付けてほしい」と呼び掛けている。

 <あおり運転の厳罰化> 2020年6月の道交法改正で、あおり運転を「妨害運転」と規定。相手の車両の走行を妨げるために、危険な方法で一定の違反をすることと定義した。罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。高速道路などで他の車を停車させるなど「著しい危険」を生じさせると重くなり、5年以下の懲役または100万円以下の罰金になる。行政処分は、1回で免許取り消しとなった。死傷者がいる場合に用いる改正自動車運転処罰法も危険運転の適用範囲を拡大して同年7月に施行。高速道路などで止まるなどして、走行中の車を停止または徐行させる行為にも適用されることになった。


関連キーワード

PR情報