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ダノンザキッド日本ダービー欠場に残念…前肢を柔らかく伸ばす突き抜けた能力が『橈骨粗面剥離骨折』の原因に

2021年5月28日 06時00分

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ダノンザキッド

ダノンザキッド

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 東京優駿(日本ダービー)の出走表にダノンザキッドの名がないのは大変残念だ。戦線離脱の原因は「橈骨(とうこつ)粗面剥離(はくり)骨折」。全治3カ月以上の診断だった。この種の骨折は、一線級の現役馬であまり聞かない。
 現役馬の橈骨骨折は、多くが「橈骨遠位端骨折」だ。腕節(前膝)、ヒトでは手首にあたる関節の骨折で、発生機序は直観的にも理解しやすい。全力疾走時に前肢を目いっぱい振り出すとき、腕節は伸び、関節の前面でしばしば関節を構成する骨同士が衝突。この衝撃で骨が欠ける。
 橈骨粗面は橈骨の近位、すなわち体幹側で、肘関節にある。同馬の今後を考える上で、骨折部位が腕節なのか肘なのかは重要なポイントだ。
 橈骨粗面には前腕部を前方に引き出す上腕二頭筋が付着している。橈骨粗面の骨折は前腕二頭筋が橈骨粗面を繰り返し引っ張ることで、接着部が疲労し、部分的に離断することで起こると考えられている。
 両者の決定的な違いは、骨折の生じる速度だ。骨の衝突で起こる急な骨折は急性炎症が腫れや熱感を生じて早めに発見される。骨片を摘出すれば、しばしば予後は良好だ。対して橈骨粗面骨折はひとつの衝撃で急に発生するわけではない。ときに跛(は)行の原因特定に時間がかかる。欠けた骨片と元の骨の間の空間を埋める結合組織が頑固に入り込んでしまうと「きれいに元通り」という状態には戻しにくい。もともと筋と骨の接着部のことなので「骨片を取っておしまい」というわけにもいかないケースが多い。カルテが開示されているわけではないので、あくまで診断名から推察される一般論だが、ダノンザキッドが完治にまで至るのは難しいだろう。
 2歳までのダノンザキッドは、前肢をこれでもかと柔らかく伸ばす馬だった。突き抜けたこの能力が、結果的には自らの肘を壊してしまった。復帰後、ホープフルSまでのようなパフォーマンスを望むのは難しいかもしれない。けれど、それゆえに潜在的な能力は間違いない。少し気の早い話だが、種牡馬入りがかなえば、産駒は決して早熟傾向を示さないことをここに予言しておきたい。

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