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サッチーの目に涙?ノムさんが頭と足首を包帯でぐるぐる巻き?脳腫瘍で手術のウワサの真相とは【竹下陽二コラム】

2021年5月21日 11時53分

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野村克也・沙知代夫妻

野村克也・沙知代夫妻

◇生涯一野村番がつづる「ノムさんジャーニー」その14
 前回コラムの続きである。2001年オフに3年連続最下位と沙知代さんの脱税逮捕が決定打となり、阪神監督を辞任。年が明けて、脳腫瘍で手術のウワサ。立て続けに襲う逆境。病床にいるかもしれないノムさんの心情を思うと心が痛んだ。そっとしておくべきか。いや、野村番として、真相が知りたい。2人の自分がせめぎ合い、後者が勝って、電話を入れた。
 沙知代さんが出た。おそるおそる巷で流れるウワサの真偽を確かめた。すると、沙知代さんは「誰がそんなデマを流してるのかしら。私もそんなウワサを聞いたわよ。でも、主人はピンピンしてますから。ご安心を!」と一笑に付した。その冷静さが妙にわざとらしく感じた。すると、である。今度は私の携帯電話が鳴った。出ると、聞き慣れただみ声が聞こえてきた。
 「オレや。元監督や。オレは、ちゃんと、生きてるよ」
 ノムさんだった。「元監督や」と自虐的に名乗った言葉が哀しかったが、元気そうではあった。しかし、元気をアピールすればするほど疑いが深くなった。「ご機嫌うかがいに行って良いですか?」と尋ねると、「エエでー」と快諾。後日、ノムさん邸を訪ねた。
 沙知代さんが、応対してくれた。リビングに案内されると、目に飛び込んできたノムさんの姿に、ギョッとした。頭と足首を包帯でぐるぐる巻きにされたノムさんが「こんなになっちゃったよ」と情けなさそうにソファに座っている。ウワサは本当だったのか!? 退院して自宅療養というわけか? でも、足首の包帯はなに? 頭の中でナゼの嵐が吹き荒れた。
 私が、言葉に詰まっていると、ノムさんは「庭で愛犬と戯れていたら、バランスを崩して、足首をネンザしちゃった。おまけに、頭までコンクリートにしたたかに打ち付けて。神のお告げかもしれん。もう、年やって。病院で車いすに乗って、頭をグルグル巻きにされているオレの姿を見た人が、そういうウワサを広めたんやろかなあ」と説明してくれた。
 少し人相まで変わったノムさんを見て、完全にモヤモヤが晴れたわけではないが、長居は無用だった。約30分ほどの滞在で辞去することにした。玄関で見送ってくれた沙知代さんが「主人を励ましてやって。あの人には、野球しかないの。おだててやって」と神妙な顔で言った。泣いているようにも見えた。
 のちに、その時のことを書いたら「なんで、私が、あなたの前で泣くのよ! うぬぼれるんじゃないわよ!」とこっぴどく怒られた。恐怖すら覚えた。むしろ、サッチーの弱さでなく、ノムさんへの愛情を感じ取って書いたつもりなのだが、その迫力に震え上がった。
 あれから、19年の歳月が流れた。沙知代さんの後を追うように、ノムさんも天国に旅立ち、1年が過ぎた。私は、野村家の好意に甘えて、再び、ノムさん邸を訪れ、仏前に手を合わせた。そして、故人をしのぶ話をしているうちに19年前のウワサが本当であることを知った。あの日、頭と足首を包帯でぐるぐる巻きにされソファに座る、変わり果てたノムさんと対面した、同じリビングで、私は、人生の「もしも」について考えた。
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