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入管法改正断念 人権軽視体質改めねば

2021年5月19日 05時00分 (5月19日 05時00分更新)
 審議中の入管難民法改正案について、政府与党が今国会の成立を見送る方針を固めた。国際機関からの批判も強く、判断は当然で、スリランカ人女性収容者の死亡事件の解明も急ぐべきだ。
 今回の改正案は長崎県の大村入国管理センターで二〇一九年、収容中のナイジェリア人男性が長期収容に対する抗議のハンストで餓死した事件がきっかけだった。
 教訓として収容者の人権擁護を手厚くする改善が望まれたが、改正案の方向性はそれとは逆の「厄介払い」に貫かれていた。
 退去処分を拒む人びとの多くは帰国すると身に危険が及ぶ恐れがあったり、日本に家族がいる人びとだ。だが、改正案はこうした事情に配慮せず、難民認定申請を送還を免れる手段と決めつけ、三回目以降の申請は強制退去の対象にすると規定した。「難民鎖国」と評される日本の認定率の低さについては一顧だにされなかった。
 さらに退去強制拒否に刑事罰を新設し、施設と刑務所の往復になりかねないとの批判も招いた。
 こうした改正案の底流には、入管当局の外国人への人権軽視がある。それが顕在化したのが、法案提出後の三月に名古屋市の入管施設で起きたスリランカ人女性ウィシュマさんの死亡事件だった。
 ウィシュマさんは留学生だったが学費が払えず、非正規滞在になった。昨年八月、同居中のスリランカ人男性の暴力から逃れようと警察に駆け込んだが、逮捕され、収容された。男性からは「祖国に帰れば(男性の親族が)殺す」と脅されており、退去を拒んだ。
 収容で体調を崩し、吐血とともに体重は十二キロも減った。仮放免を求めたが、認められなかった。
 診察した医師の診療記録には点滴の必要が書かれていたが、入管が作成した事故の中間報告には「医師から点滴、入院の指示なし」と記されていた。いまも法務省はカルテを含む事件の詳細を公表していない。改正案を提出する資格があるとは、到底思えない。
 入管施設での死亡者は〇七年以降、十七人に及ぶ。今国会成立は見送られるが、第三者によるウィシュマさん事件の解明とともに、収容者らの人権を守る施策は待ったなしだ。
 具体的には難民の認定率を国際水準に引き上げること、収容や仮放免への裁判所の介在などだ。
 ウィシュマさんの母親は「誰かが日本に行きたいと言っても勧められない」と語った。政府はこの言葉の重さをかみしめるべきだ。

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