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ついに現れた「走らない聖火リレー」 7月の東京へ、もの悲しいトーチキスは続いていく

2021年5月12日 18時25分

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3月、福島県楢葉町で始まった東京五輪聖火リレー

3月、福島県楢葉町で始まった東京五輪聖火リレー

【コラム・光と影と】
 「トーチキス」―。トーチ同士がキスをする。たった5文字に、ほほ笑ましいシーンが目に浮かぶ。だが、本来愛しいはずのキスシーンが、私にはどこかもの悲しい。5月11~12日、福岡で行われた聖火リレー初日は、福岡市の高台にある平和台陸上競技場にしつらえられた舞台上で行われた。だが、選ばれた彼らは「ランナー」ではなかった。聖火を渡す人も、受け取る人も、次から次へと、ほほ笑みながら数歩「歩く」だけのトーチキスである。予定されていた所定の距離を走り、次走者につなげる、いわゆる「聖火リレー」は行われなかったからだ。
 5月11日、福岡には雲が立ち込めていた。翌12日、コロナの猛威に巻き込まれたこの県には、緊急事態宣言が発せられた。それでも、東京五輪の開幕する7月23日に向けて走ることなく聖火をつなげた。
 3月25日に福島をスタートした聖火「リレー」をNHKが携帯電話のライブ映像で伝えている。これまで、大阪では観客のいない万博公園のリレーを見たが、ランナーは短い距離ではあったけれど「走って」炎をつないだ。だが、とうとう、福岡で「走らない」リレーが現れた。
 そもそも、近代五輪に聖火リレー(ギリシャのオリンピアで採火~開催地)が登場したのは、1936年ベルリン五輪が最初である。学者でもあった組織委員会事務総長、カール・ディーム博士の発案だった。4年に1度の古代オリンピック(紀元前776年~紀元393年)開催を、使者がオリーブの葉を持って触れてまわったという故事にヒントを得たものと言われている。ただ、ベルリン五輪当時、ドイツを治めていたのは、独裁者として名高い、ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーで、後に、聖地オリンピアからベルリンまでの聖火リレーコースを、逆にたどって侵攻を企てたと言われている。
 しかし、史実はともかく、聖火は、古代と現代をつなぐオリンピックの象徴儀式として国際オリンピック委員会(IOC)が採用して現代に至っている。「火が消えた」など小さな事故はあったが、聖火が走る―オリンピックがやって来る―は開会前の大きなセレモニーとなっている。世界大戦による中止はあったが、それ以外で聖火が走らなかった大会はない。
 姿を変えながら脅威をもたらし続けるコロナの行方はまったく分からない。前代未聞の災禍の中、コースを替え、ランをウォークに替えながら、聖火は東京を目指してささやかな「トーチキス」を続けている。辛い。(満薗文博・スポーツジャーナリスト)

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