本文へ移動

<五輪リスク>開催意義 説明できない JOC理事・山口香さん「コロナ禍国民に不平等感 強行なら「負の遺産」」

2021年5月12日 08時17分 (5月12日 08時20分更新)

2018年6月撮影

 日本オリンピック委員会(JOC)の理事で、元柔道世界王者の山口香さん(56)が本紙のオンラインインタビューに応じ、コロナ禍での五輪開催について「意義や価値を説明していない」と指摘。反対が強い中で開催すれば「大会が負の遺産として残る可能性がある」と警鐘を鳴らした。 (聞き手・吉光慶太)
 -現状をどうとらえるか。
 全ての国民がコロナ禍に我慢を強いられながらも協力し、一年以上、踏ん張ってきた。一方、政府は五輪だけは別物で、開催するための手だてを探している。そのダブルスタンダードにやるせなさや不平等を感じるのは当たり前だと思う。
 札幌市で開かれた五輪のテストイベントでも、大会組織委員会は万全な感染対策と言うが、国民は「他のイベントとどこが違うのか」と感じている。そこに乖離(かいり)、分断が生じている。心の底から応援してもらえない空気の中で競技するアスリートも苦しいと思う。
 -国際オリンピック委員会(IOC)が選手団にワクチンを無償提供する。
 医療従事者や介護スタッフでさえ接種の順番を待っている。でもアスリートは五輪のために割り込ませてくださいと。どこが提供するかという議論ではなく、命を守る優先順位を変えることは倫理上の問題とも言える。
 数万人の関係者が集う五輪に医療スタッフは必須で、医師や看護師の協力をお願いせざるを得ない。五輪によって医療に影響が出るかもしれない状況でも開催する意義や価値を、政府やIOCは説明していない。私自身は説明できない。
 菅義偉首相が訪米のためにワクチンを接種しても、外交や国益のためと分かるから異論は出ないが、五輪はすとんと落ちる意義の説明ができないから、国民に反対の声が強い。
 -五輪は感動を共有できる価値がある、との声がある。
 日本人が活躍したらみんな感動するだろう。ただ、一時的な感動のために医療逼迫(ひっぱく)などの問題を飛ばしていいのか。「五輪のせいで病床が空いていない」と言われても、仕方ないと思えるのか。感動とリスクをてんびんに掛けての判断が政治だと思うが、そもそもてんびんに掛けて良いのか。
 商業主義や肥大化といった五輪の課題はこれまでも薄いカーテンの向こうに見えていたが、「世界的なお祭りだから」と許容してきた。今回は自国開催にコロナ禍が重なってカーテンの向こう側にあった汚いところも見ざるを得なくなった。巨大化した五輪は、利益も絡まって誰が責任主体か分からず、方向転換も判断もできないように見える。
 -開催された場合、どういう意味を持つ大会になると思うか。
 開催に突き進む意義や価値を国民に伝え、感じさせることができなければ、負の遺産として残る可能性がある。結果として感染拡大につながれば、アスリートや五輪への反発につながりかねない。五輪後のスポーツを考えたときに、開催がプラスなのかマイナスなのか、よく考える必要がある。

<やまぐち・かおり> 1964年生まれ。84年の柔道世界選手権で日本の女子選手として初優勝。88年ソウル五輪女子52キロ級で銅メダル。同年、中日体育賞を受賞した。2011年からJOC理事を務める。筑波大教授。

関連キーワード

PR情報

東京五輪の新着

記事一覧