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「選手個人に当てるのはとても苦しい」 胸が痛んだ池江璃花子選手のメッセージ 五輪への批判は政府や東京都にするべきだ

2021年5月9日 09時27分

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池江璃花子選手

池江璃花子選手

◇ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記
 白血病を乗り越えて東京五輪代表の内定を勝ち取った競泳女子の池江璃花子選手が、五輪開催への批判が高まる中で苦しむ自身の気持ちを7日にツイッターで明かしました。コロナ禍で五輪を推し進めようとする批判は政府や東京都に対してするべきなのに、その矛先が選手たちにも向かってしまっている。一文字一文字に込められた池江選手のつらさを思うと、胸が痛くなりました。
 告白すれば、実は私も「池江選手が五輪の中止や延期を求めれば、局面は大きく変わるだろう」と考えた一人です。「もし○○のようなことが起きれば」と仮定の話を常に頭に置くのは、ジャーナリストの習性です。ところが同じようなことを思ったのか、池江選手のインスタグラムやツイッターに「辞退してほしい」「反対に声を上げてほしい」などと投稿した人がいるといいます。はっきり言いましょう。これは池江選手への暴力です。
 今回の池江選手のメッセージは、そのようなコメントが寄せられていることを知って発したものでした。
 「持病を持ってる私も、開催され無くても今、目の前にある重症化リスクに日々不安な生活も送っています。私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。ただ今やるべき事を全うし、応援していただいている方達の期待に応えたい一心で日々の練習をしています。オリンピックについて、良いメッセージもあれば、正直、今日は非常に心を痛めたメッセージもありました。この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです」(原文ママ)
 全文を読めば、自身だけではなく現在のアスリートの心境を代弁したメッセージであることも分かり、最後は「わたしに限らず、頑張っている選手をどんな状況になっても暖かく見守っていてほしいなと思います」と結んでいます。
 選手たちをこれほどに苦しめているものは何なのか。それを考えることは、コロナ禍で社会全体に起こっている現象を見つめることにもつながります。
 このような時だからこそ、選手の気持ちに寄り添うことは忘れずにいたい。多くの人に祝福されるから「オリンピック」であり、スポーツを通じて戦争も差別も偏見もない世界を目指す根源の思想「オリンピズム」にもつながるのです。それなのに国民の7割が今年の開催は無理だという中で「安全、安心」という言葉ばかりを繰り返している政府や東京都。そこには五輪を利用して政権や自身の立場を守ろうとする思惑しかないのではと、感じることさえあります。
 選手たちへのワクチン優先提供も、そのための口実かと思えてしまう。それどころか、接種するかしないかを選ぶ権利を持つ選手たちへの接種強要につながるのではと、危惧しています。
 目標に向かって日々の努力を重ねるアスリートの姿は尊い。そんな選手たちの心を傷つけることだけはやめてほしいと願います。
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまで中日ドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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