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「騎手が馬の頭部をける」 ばん馬を思っての行動か虐待か…線引き難しい問題 ミスリードした報道には疑問

2021年5月7日 10時19分

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帯広競馬場での鈴木恵介騎手とオレノココロ=2019年

帯広競馬場での鈴木恵介騎手とオレノココロ=2019年

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 4月18日のばんえい競馬能検(帯広市)で、鈴木恵介騎手が馬の頭部をけったとして批判を浴びている。市ばんえい振興課は「いかなる理由であれ認められない」として、同騎手は戒告処分。騎乗自粛中だ。
 ことはそう単純ではない。砂地に突っ込んだ馬の頭部を一刻も早く起こすための行動だった。鈴木騎手はソリを下りるまでに長手綱を散々引いている。砂地に鼻が突っ込むと、馬は非常に危険だ。口呼吸はできず、砂が肺に入るのを放置するのはむしろ虐待である。
 動物への悪意なき行動が別の人には虐待に映るという現象は、深く複雑な問題をはらむ。家畜(産業動物)や、実験動物、漁で得る魚なども含め、人はさまざまな動物を「使って」生きている。彼らへの関わりのありようが虐待かどうかの線引きは時に難しい。
 ばん馬がけられるのはファンには不快な光景だろう。だから不適切という見方も理解できる。一方で、例えば豪州の一部州は魚の生け作りを虐待だとして禁止している。捕鯨に対する価値観の文化間衝突も激しい。ルールは文化や時代で容易に変わる。境界領域では、しばしば直情論にひきずられ、本質を失う。だから産業動物らを巡る動物愛護を、愛玩動物と同じ視点で論じるのは厳に慎むべきだ。行き過ぎた直情論は、携わる職業人への差別の問題にも直結する。
 この意味において、騒動を一報したJ―CASTニュースが、鈴木騎手のコメントを「イライラしてけった」としたのは、問題の持つ意味を大きくミスリードした。同騎手はこの種の発言を断じてしていない。
 30日、鈴木騎手を電話で直撃した。騒動後、ほかに取材は一切受けていなかった。「ファンに不快な思いをさせた。本当に申し訳ない」。謝罪の言葉を重ねた同騎手も、言った覚えのない「イライラ~」というコメントには困惑していた。
 ばんえい振興課によればJ社からの電話取材は21日午後3時半。記者が「イライラしてけったのか」と問うたのに対し「馬を起き上がらせようとして対処したもの」と答えたが、記者が発言したものを、あたかも鈴木騎手が話したかのように原稿化されたという。
 同課ではJ社に抗議したが、受け入れられなかったという。鈴木騎手、ばんえい振興課の認識と、J社記事の隔たりについてJ社は7日、本紙の取材に文書で「ばんえい振興課への取材内容に基づき記事にしております。『イライラして蹴った』という記載につきましても、同課の担当者とのやり取りをもとに記事中に掲載しました。取材時点では、そのようなやり取りだったと認識しております」と回答した。

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