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漫画アニメ編(5) 3月のライオン(下) 

2021年5月10日 05時00分 (5月10日 05時00分更新)
『3月のライオン』(羽海野チカ)第4巻のひとこま。プロをうならせる迫真の対局シーンも見どころだ(白泉社提供)

『3月のライオン』(羽海野チカ)第4巻のひとこま。プロをうならせる迫真の対局シーンも見どころだ(白泉社提供)

編集者と作者 二人三脚

 『3月のライオン』(羽海野(うみの)チカ)の巻末のおまけ漫画に、大きなクマのキャラクターが登場する。モデルは白泉社の担当「T田」こと友田亮(52)=名古屋市出身。この熱心な編集者がいなければ、将棋史に残る名作は生まれなかった。
 友田は日本大の将棋部長を務めた愛棋家。羽海野の出世作『ハチミツとクローバー』で、ヒロインが全身全霊を懸けて絵を描こうとするシーンから「勝負を描く才能あり」と見抜き、将棋かボクシングの作品を描いてもらおうと考えた。ユニークな提案に引かれた羽海野は、次の活躍の場に青年漫画誌「ヤングアニマル」を選ぶ。そして友田と二人三脚で、二〇〇七年から本作をスタートさせた。
 この漫画は玄人をうならせる迫真の対局シーンが評判だ。監修のプロ棋士・先崎学に友田が相談し、具体的な盤面を用意する。彼の役割は、盤上の難解な言語をかみ砕く翻訳者のよう。「羽海野先生が考える感情の流れに合わせて、手の強弱を調整します。描かれた盤面が読者から『おかしい』と指摘されたことは、一度もありません」と胸を張る。棋士の実態を紹介する先崎のエッセーを載せるのも、友田発のアイデアだ。
 繊細さと力強さを併せ持つ羽海野と長らく仕事し、「人はここまで考えるのか」と感銘を受けたという。入魂の作品はアニメや映画になり、フランスやスペインでも年間ベストに選ばれた。「将棋を題材にした時点で国内限定の作品だと思っていて、ここまでヒットするのは予想外だった。羽海野先生は編集者としての夢を全てかなえてくれた特別な人」としみじみ語る。
 「自分に『3月のライオン』を連れてきてくれた」と将棋にも深く感謝する友田。足かけ十五年にわたる物語は今、クライマックスを迎えている。「どんな結末になるか? それは絶対に言えませんよ」。連載開始時の副編集長から編集部長に出世した友田は、そう言って目を細めた。(敬称略)(岡村淳司)

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