本文へ移動

<三河撮りある記>(71) 蒲郡市形原温泉の山麓園 

2021年5月2日 05時00分 (5月2日 05時00分更新)

 三河湾を見下ろす蒲郡市の形原温泉の最奥部。清酒の醸造に使われていた直径数メートルの杉だるを改造した小屋が点在し、あちこちから羊肉を焼く煙が漂う。

三河湾を一望できる高台にある山麓園。杉だるを利用して造った個室から、羊肉を焼く煙が上る=蒲郡市金平町で

 一九五七~七六年に運行した三ケ根山ロープウエーの山麓駅があった辺りで、今も営業するジンギスカン鍋の店「山麓園」。現在は二代目店主(故人)の妻、藤井陽子さん(76)が切り盛りしている。
 創業時はモンゴル風のテントを並べて客を迎えていたが、伊勢湾台風で被災した。碧南市の造り酒屋から使わなくなったたるをもらい受け、解体して運搬。現場で組み直し、屋根や窓をしつらえた。
 店は大いに繁盛し、敷地を徐々に買い足していった。最盛期には大小百棟以上が立ち並び、各部屋から注文を受けるための電話線が調理場の建物につながっていた。
 数百人を収容できる大広間もあり、昭和の高度成長期には多くの団体旅行客を受け入れた。六五年に嫁いだ陽子さんは「夫が亡くなるまでの約四十年、一日も休まなかった」と振り返る。
 時代が変わり、団体客は姿を消した。この春、増築を重ねてきた調理場の建物を解体し、代わりに客室の一つをコンパクトな調理場に改装した。各部屋からの注文は携帯電話で受けるようになった。
 山の斜面を上り下りしながら各部屋へ料理を運ぶ陽子さんは「『おかみ、大変だね』と言われるけれど、お金をいただいてトレーニングしているようなもの」と笑う。
 今では入手困難になった杉だるの小屋も、二十棟ほど残っている。グループごとに完全貸し切りの小屋は他の客との「密」を避けられるため、コロナ禍でひそかな人気を呼んでいる。
  文 ・木下大資 写真・太田朗子

 山麓園 三ケ根山ロープウエーの開業と同時期に開店した。初代店主の藤井忠次さん(故人)は岡崎市出身で、「新幹線から見える城を建てる」との目標も描いていたという。蒲郡市金平町。(問)0533(57)3603


記者へのメッセージポストへの投稿はこちらから
PR情報