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漫画アニメ編(4) 3月のライオン(上) 

2021年5月3日 05時00分 (5月3日 05時00分更新)
将棋会館がある千駄ケ谷のマンホール。『3月のライオン』のキャラクターがデザインされている=東京都渋谷区で

将棋会館がある千駄ケ谷のマンホール。『3月のライオン』のキャラクターがデザインされている=東京都渋谷区で

枠超え生まれたヒット

 「数年前、自分はよくない状況にいて悩んでいました。でも、あのアニメを見て励まされたんです」。ブラジルで将棋の普及に取り組むダニーロ・エンボアーバ・ダシルバ(34)は、自身が将棋にのめり込むきっかけになった作品を、そんなふうに語った。
 その作品とは、羽海野(うみの)チカの『3月のライオン』。手塚治虫文化賞など数々の賞に輝き、実写映画化されたり、スピンオフ作品が生まれたりと、さまざまな広がりをみせた。これまでの将棋漫画で最もヒットした作品と言えるだろう。
 主人公は、幼い頃の事故で家族を失いながらも、類いまれな才能と努力で史上五人目の中学生棋士になった桐山零。孤独な道を歩む彼が、個性的な棋士たちとの真剣勝負や、下町住民との触れ合いを通じて、人間的に成長してゆく。
 青年漫画誌「ヤングアニマル」で連載しているが、ほのぼのと愛らしい絵柄に、料理や手芸のうんちくがちりばめられ、まるで少女漫画のよう。でも物語は甘くない。学校での陰湿ないじめや込み入った家庭問題など、盤外で起きるトラブルが登場人物を苦しめる。時に傷つき、時に悩みながら前に進む若者たち。そのメッセージ性の高さは、将棋漫画の枠にとどまらない。
 公式ファンブックによると、将棋初心者の羽海野は、「将棋界の一番長い日」と呼ばれるA級順位戦最終日を取り上げたテレビ番組をたまたま視聴。トップ棋士の佐藤康光が、秒読みに追われながら苦悶(くもん)の表情で指す迫力に圧倒された。同じ自己責任の世界に生きる漫画家として、気持ちが分かると感じたそうだ。「将棋を知らないのに描かなきゃいけないから、いつまでも真剣に描けるんだと思います」とも語っている。
 羽海野は美術大を舞台にした前作『ハチミツとクローバー』で脚光を浴びた。その繊細な女性漫画家に、青年誌でのチャレンジを促したのは、将棋通の名物編集者だった。(敬称略)(岡村淳司)

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