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不可解だった岩手県警の捜査終結「わらからの自然発生」は本当にあるのか?JRA競走馬総研らの見解でも可能性は極めて低く

2021年4月23日 06時00分

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岩手競馬のホームページ

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◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 2018~19年に地方競馬の岩手で計12頭から禁止薬物ボルデノンが検出された一連の事件で岩手県警は「わらからの自然発生だった」として捜査を終結した。その一方で馬に関する国内随一の研究機関であるJRA競走馬総合研究所(以下総研=栃木県)が見解をまとめた文書を作成し、各地の地方競馬関係者が共有。厩舎現場が困惑する事態に発展している。
 文書は捜査終結報道の直後にあたる3月21日付。「通常の馬の飼育環境では起こりがたい」などと記されている。地全協がばんえいを含めた全国13すべての地方競馬主催者に配布した。
 わらは世界中の厩舎で広く使われている敷料だ。中央競馬でも特に美浦はわら使用の厩舎が多数を占める。県警の筋書き通りであれば、公正確保のためにわらが使えないという事態にもなりかねない。JRAは19日の関東定例会見で「よほど条件がそろわない限り、こんなことは起きない」と説明。JRAの現場レベルでも複数の獣医師・研究者が「通常の管理条件では起こらない」と、口をそろえる。
 県警によると“自然発生説”の根拠としたのは岩手県競馬組合から提示された海外の文献3本だが、1本は検査の精度に関するもので核心には直接関係なく、1本は「試験管内である種のカビがトウモロコシ由来の成分を発酵した時、微量のボルデノン関連物質を合成しうる」と主張するもの。トウモロコシとは無関係な現実の厩舎で、自然発生したとする説を支持する材料としては極めて弱い。残る1本は競馬関係獣医師の国際会議録(16年ウルグアイ)で、実験的に何かを証明したものではない。
 岩手では調騎会が全調教師にこの文書を配布。ある調教師は「どこの厩舎も馬房は毎日欠かさず掃除している。県警の“自然発生説”は自分たちの寝わらの管理が悪かったと言われているようだし、現場の誰も納得していない」と憤る。
 世界の潮流に合わせ、日本でボルデノンが禁止薬物指定されたのは98年。以降JRAだけでも約20万件が検査対象となっているが、ここからのボルデノンの検出は1件もない。2年間に12頭と集中して検出されたのは同じく馬がドーピング対象となる馬術の世界も含め世界的にも岩手のみだ。“自然発生説”に従うなら岩手には特異な環境要因があると考えるほかない。岩手では昨年から敷料を全面的にウッドチップに切り替えたが、それでその環境要因がぬぐい去られたかどうかはあらためて科学的に検証される必要がある。
 総研の見解について岩手県警は「文書の内容を確認したが、県警はコメントする立場にない」、9日に被疑者不詳のまま不起訴処分とした盛岡地検は「コメントは差し控える」としている。岩手県競馬組合は「総研の文書と、捜査終結の間のことについて、組合内で議論し、今後、一定の総括をしたいと考えている」と話している。
▽地方・海外の競馬に精通したフリージャーナリスト土屋真光さん
「国内の地方競馬だけでなく、海外でも多くの競馬場で寝わらは広く使われている。海外でもわらから禁止薬物が自然発生したという話はまったく聞かない。文献を根拠に前例皆無の“自然発生”を結論づけるのは、はなはだ疑問だと思う」

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