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「還暦になるまでに神宮に出る」57歳の”おじさん”大学野球部員が大まじめに語る目標 「いくつになってもチャレンジできる」

2021年4月6日 05時00分

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若者に交じって練習する加藤文彦外野手(中)

若者に交じって練習する加藤文彦外野手(中)

 還暦で神宮へ―。愛知大学野球3部リーグの名古屋工大に異色の選手がいる。加藤文彦外野手(2年・岐阜)は、今年で57歳となる公務員。幼い時から好きだった野球がやりたいがために、50代半ばにして大学に入り直した。今は「還暦になるまでに神宮に出る」との目標を立て、若者に交じって白球を追い掛けている。
  ◇  ◇
 「ショートしっかり!」「もう1本、もう1本!」。グラウンドにこだまする野球の掛け声。どこの大学にでもありふれた光景だが、少し違うところがある。若者たちの中に交ざってノックを受けているのは、メガネ姿の“おじさん”だ。
 「4月から2年生になったので、正確にはオールドルーキーではなくなりました。1年生も入ってくるのでこれから競争がスタートします。監督もケージの裏から目を光らせていますので、しっかりアピールしないといけないですね」
 丁寧な語り口でそう話す加藤。公務員として働くかたわら大学の夜間部に通い、土日にはグラウンドで息子と同年代の部員とともに白球を追い掛ける。平日の練習に参加できない代わりに、朝のランニングや昼休みに近くの山を登って練習量を補っている。
 幼い頃から野球が大好きだった。物心ついた時には近所のお寺で友達と三角ベースをして遊んだ。親に連れられて行った甲子園球場では、作新学院の怪物・江川卓が銚子商に押し出し四球でサヨナラ負けした試合をバックスクリーン近くの外野席で観戦。プロ野球では巨人がV9を達成していた時代。同じ左打ちの王貞治さんはあこがれの存在だった。
 小学4年から自然とスポーツ少年団に入団。中学校でも野球部に入ったが、吃音(きつおん)で自信を持って声を出せなくなったことが原因で辞めた。高校では帰宅部。「自宅と学校を往復するだけの毎日」を送った。
 社会人になってからも職場の軟式野球チームに入っていたが、50代半ばで政府が掲げる「人生100年構想」に感化された。「いくつになってもチャレンジはできる。60歳までに硬式野球をやりたい」と一念発起。「最初は甲子園を目指そうと思ったんですけど、調べたら年齢制限がありまして…。大学野球だったら、入学すれば年齢制限はなかったんです」と大学受験を決めた。
 センター試験を受け、自宅から通えて学費も安い国立の名古屋工業大学に合格。昨年7月から念願の学生野球に身を投じている。体力や技術の差だけでなく、軟式と硬式の違いにも苦労した。「最初は右手の付け根がぱんぱんに腫れちゃいました」と照れ笑いを浮かべる。
 ピュアな57歳の野球部員に、他の部員の見方も変わっていった。「最初は知らないおじさんがいると思って、コーチの方かなと思いました」と話すのは主将の横山大耀外野手。ただ土日には誰よりも早くグラウンドに来て練習の準備をする姿に、「最初は驚きましたが、今では野球に対する姿勢とかはいい刺激になっています」と1学年後輩の「文彦さん」を評する。
 3日の名古屋外大戦で4点リードの9回2死から守備固めで公式戦デビュー。王さんがダイエー、ソフトバンクの監督時代に着けた背番号89のユニホームを着て、一塁の守備についた。「急に監督に『いくぞ』と言われて…。緊張する時間もなかったです。前の日から言われていたら寝られなかったかもしれないです」。最後の打者は空振り三振で守備機会はなかった。それでも守備位置からいつ打球が飛んでくるかと心臓を高鳴らせ、野球をする楽しさに浸った。
 「努力は必ず報われる。報われないならまだそれは努力とは呼べない」。世界のホームラン王となった王さんの言葉が信条だ。「野球部に入っただけでは意味がないので、試合に出るために人一倍努力しないといけないと思っています。次はバッターボックスに立ってヒットを打ちたい。還暦を迎える前に大学野球の頂点である神宮球場に立ちたいです」。大まじめにそう話す加藤の顔は明るく輝いていた。
 ▼加藤文彦(かとう・ふみひこ) 1963(昭和38)年5月6日生まれ、岐阜県出身の57歳。170センチ、65キロ。左投げ左打ち。小学4年の時に稲羽東野球スポーツ少年団で野球を始め、稲羽中学では軟式野球部に入部した。県内屈指の進学校・岐阜高から1年の浪人を経て滋賀大学経済学部に入学し、大学時代はボート部に所属した。卒業後は公務員となり、職場の軟式野球チームで40代まで汗を流した。現在は名古屋工大工学部2年。

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