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病よ去れ 祈り込めて 「薬草取」 山本タカトさんが描く

2021年3月20日 05時00分 (3月20日 12時20分更新)

山本タカトさん(Photo by Hiroshi Nonami)

◇金沢・泉鏡花記念館

 金沢市出身の作家泉鏡花の明治期の短編「薬草取」は、病に倒れた師の尾崎紅葉の回復を祈って書かれた作品だ。泉鏡花記念館(同市下新町)で開かれている企画展「山本タカト 日本幽玄綺譚」では、イラストレーター山本タカトさん(61)がそのラストシーンをイメージして描き下ろした作品が展示されている。病が癒えることを祈る少女の姿に、新型コロナウイルス収束への願いが込められている。(松岡等)
 薬草取は一九〇三(明治三十六)年から日刊紙「二六新報」に連載された。金沢の医王山に薬草を取りにきた医学生が、山で出会った花売りの娘に、少年時代に大病をした母親のため異界ともいえる山に迷い込んだ経験を語る物語。娘が合掌するラストは印象的だ。

山本タカトさんが描き下ろした「薬草取−月影に紅く」(2021年、タテ40センチ、ヨコ30センチ)©山本タカト

 作品は、連載当時に胃がんで闘病中だった紅葉にささげられた作品とされる。鏡花は新聞を切り抜きして紅葉に添削を受け、作品集に収めて出版した時には、紅葉の添削通りに修正していたという逸話が残る。展覧会では、紅葉が赤字で残した添削跡がはっきり分かる新聞の切り抜きも展示した。
 「薬草取」は山本さん自身も好きな作品だったというが「依頼を受けて描くのがイラストレーター」というポリシーから、今回、記念館の依頼で初めてテーマにしたという。満月を背景に、作品の重要なモチーフにもなっている花々に囲まれた白装束の娘が手を合わせる場面が描かれている。
 企画展は、山本さんが日本の近代文学をテーマに描いたイラストを、鏡花の関連資料とともに展示している。「南総里見八犬伝−八剣士勢揃い」(二〇一九年)は、大正から昭和にかけて活躍した挿絵画家・伊藤彦造へのオマージュ(敬意)から描いた作品。鏡花も愛読し、「八犬伝」専用の鏡花の本箱を見ることもできる。

「草迷宮Ⅰ」(2014年、タテ40センチ、ヨコ30センチ)©山本タカト

 山本さんは秋田県出身。東京造形大油絵科を卒業後、「浮世絵ポップ」という様式を標榜(ひょうぼう)し、耽美(たんび)的な作品を数多く発表。一四年には鏡花の「草迷宮」や「天守物語」(宇野亜喜良さんと共作)を「現代の鏡花本」として出版している。「草迷宮」のイラストやその下絵も展示。劇作家・寺山修司の演劇「身毒丸(しんとくまる)」のイラストとともに、寺山が作中に鏡花の文章を引用することの許可を遺族に求めた書簡などもある。
 五月十六日までの会期中に展示するイラストは一点の入れ替えを含め計十六点。「薬草取」のイラストはポストカードとフレームをセットにして記念館で販売し、売り上げの一部は日本赤十字医療センターに寄付する。

◇4月18日 館長が講座

 関連イベントで秋山稔館長による講座「薬草取」が、四月十八日午後二時から、金沢市青草町の近江町交流プラザである。無料。参加申し込みは二十三日から、記念館=電076(222)1025=へ。

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