【石川】あの和む空間 受け継ぐ 金沢の喫茶店「珈琲館禁煙室」昨年12月閉店

2021年2月20日 05時00分 (2月20日 09時57分更新)

解体工事が始まる前の店内の様子=前野玲子さん提供

30代夫婦 内装移設し大阪で開店へ

 多くの人に惜しまれながら昨年末、金沢市尾張町の喫茶店「珈琲館禁煙室」が約四十年の歴史に幕を閉じた。一杯のコーヒーを味わいながら、客と店主が気取らぬ会話でひとときを楽しんだ昔ながらの喫茶店。「あの店の雰囲気を受け継ぎたい」−。そんな思いを抱いた若夫婦が店の内装や食器を譲り受け、大阪で“第二の禁煙室”を開こうとしている。(郷司駿成)
 「なんか娘を嫁がせる気分だね」。解体作業が進む店内で、ステンドグラスや机が並んだ様子を見渡し、店主だった前野玲子さん(79)はうれしそうに話す。
 大阪へ移すステンドグラスやカウンター、青色のタイルなど内装は、一九八〇年に店を前のオーナーから受け継いだ当時からのもの。一方、食器類は二〇一九年に亡くなった夫の克祐(かつすけ)さん=享年八十一=と二人の好みで買いそろえた。

移設するための解体工事が進む店内で「禁煙室」の看板を手にする前野玲子さん(右)、大阪の山口修平さん(中)、加奈さん夫妻=金沢市尾張町で

 一緒に店を経営してきた克祐さんを亡くしてからも約一年八カ月の間、店を続けたが、年齢的にも限界だった。昨年十一月中旬に閉店を告知し、十二月三十日で店の看板を下ろした。
 大阪市内で「喫茶水鯨」を間借り営業する山口修平さん(31)と加奈さん(30)は二年前に店を訪れ、カウンター越しに常連客と店主が会話を楽しむ様子を目にしたことがあった。店の雰囲気に浸り「人と人がつながる良い喫茶店だな」と修平さんの心に残っていた。昨年十二月に会員制交流サイト(SNS)で禁煙室の閉店を知った。「あの空間を無くしてはいけない」。店を引き継ぎたいと考えた。
 山口さん夫妻が金沢に移り住み、別の場所で禁煙室の看板で店を継ぐことも考えた。しかし、前野さんあっての禁煙室だと思い改め、内装の移設や食器類を譲り受けたいと申し出た。
 「私たちが使っていたものが誰かの手に渡ってまた使われる。感慨深いものがあった」。前野さんは食器類を無償で提供することを決めた。内装の所有権を持っていた不動産会社も長年、建物を利用してくれた前野さんへの感謝から、無償での移設を快諾した。
 解体作業は二月に始まり、大阪への輸送は月内には終わる見込み。山口さんは現在、移設した内装を入れる新しい物件を大阪市内で探している。早ければ五月の開店を目標にしている。
 目指すは禁煙室の再現だ。内装の配置もできるだけ似せて、加奈さんは「入ったら禁煙室。ファンだった方に喜んでもらいたい」と話す。一方で、外観だけでなく「自然と会話が生まれる禁煙室のような店をつくりたい」と意気込む。
 そんな二人を見て、前野さんは自分たちと照らし合わせた。「私たちも三十歳を過ぎてから店を始めた。私たちの年月を越えるくらい店を続けてほしい」

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