「密室」を否定しながら「透明性」を拒否する組織委新会長人事の不可思議…ウイルスより前に五輪は人間につぶされる!?

2021年2月18日 10時27分

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橋本聖子五輪相

橋本聖子五輪相

  • 橋本聖子五輪相
 東京五輪・パラリンピック組織委員会で辞任を表明した森喜朗会長の後任を選ぶ「候補者検討委員会」は、17日の会合で候補者を橋本聖子五輪相に一本化したと報道され、橋本氏もこの要請を受ける方向で進んでいるようです。
 ただ、私にはこの一連の騒動でどうしても不可思議なことがあります。それは、当初は新会長候補だった川淵三郎氏が辞退した背景です。報道では森氏が川淵氏に後任を要請したことを菅義偉首相などが「密室人事」と嫌い、白紙撤回になったとされています。ところが一方の川淵氏は、辞退した直後の12日夜に一転した理由を報道陣の前でこのように話しています。
 「いらんことをマスコミにしゃべったからだよ。あたかも自分がなったかのような、候補になるかのような、そういうことを言ったことに対して、それはよくないなという、そういう反省の意味も込めて、全ての責任は自分にある」
 「しゃべりすぎた」と悔いるのは、その前日に森会長から要請を受けた直後に話した内容を指していると思われます。森氏から後任を打診された時は菅首相、小池百合子都知事、安倍晋三前首相らも「川淵さんなら」と了承していると伝えられて「外堀を埋められていた感じで『勘弁してくれ』とはとても言えない状況だった」と言い、さらに「菅さんあたりは『もうちょい若い人いないか』『女性がいないか』という話もあったと聞いている」と、菅首相の提案がスルーされたことも話しています。
 結局は密室で行われていたことをオープンにしてしまったことが嫌われたと、川淵氏は思っているわけです。もともと川淵氏はメディアへのリップサービスが得意で、Jリーグ創設時から取材してきた私も「せっかく取材に来てくれたのだから、お土産をあげるよ」と、進行中のプロジェクトなどを明かしてくれたこともありました。それでもスポーツ界では「川淵さんがしゃべっちゃったのなら仕方がない」と許容される空気がありました。
 しかし政治の世界では通用しなかった。組織に所属している人なら分かると思いますが、人事は密室で行われるのが常です。それぞれの意向や希望を聞いていたら収拾がつかなくなるからで、菅首相はそのような人事を操って頂点に登り詰めたと聞きます。そんな菅首相が、自らも関わった人事を”透明”にしてしまった川淵氏が新会長候補になることを「密室人事」と理由づけて批判することに、私の頭はこんがらがったのです。
 そもそも理事の中から選出される大会組織委の会長は、森氏の一存で決められるものではありません。特に川淵氏は理事を選任する評議員という立場のため、まず自らが理事になることを評議員会で決め、その後に理事会で諮られるという手順が必要になります。これを「密室」と言うのなら、委員長を除く7人の委員の顔触れを公表しない「候補者検討委員会」こそが密室人事ではないでしょうか。その理由の一つが「委員に対してメディアの取材が殺到する」ですから、密室を否定しながら透明性を拒否するという矛盾に満ちています。
 しかも秘密のはずだった委員の名前は、16日に非公開の会合を開いた際に会場を訪れた顔触れでメディアに全員が割れてしまった。こうなると、組織委そのもののガバナンス(統治)は大丈夫なのかという危惧も生まれてきます。川淵氏が候補に挙がる以前から菅首相のイチ押しだったという橋本聖子氏も、もともとは森氏に近く、新会長になっても森氏の影響が及ぶことは避けられないというし―。
 スポーツの大会であるはずが、政治と、それぞれの意図、メンツなどがますます絡まって解(ほど)きようがなくなっている東京五輪・パラリンピック。新型コロナウイルスより前に人間によってつぶされてしまうのではという不安さえ抱きます。
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまでドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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