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古代エジプトの暮らし<1> 「食」ビール醸造 大発明

2021年2月18日 05時00分 (2月18日 10時12分更新)
ビール造りを再現した「醸造所の模型」(展示番号114)
Image(C)Rijksmuseum van Oudheden(Leiden, the Netherlands)

ビール造りを再現した「醸造所の模型」(展示番号114) Image(C)Rijksmuseum van Oudheden(Leiden, the Netherlands)

 三千年という壮大な歴史を持つ古代エジプト。ミイラやきらびやかな副葬品に目が行きがちだが、驚くような高度な文明と精神性が培われ、その生活ぶりは現代の私たちと深くつながっている。静岡市美術館(葵区紺屋町)で三月三十一日まで開かれる「ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展」(中日新聞東海本社など主催)の遺物を手掛かりに解き明かす。 (この連載は奥田哲平が担当します)
 一日の仕事が終わり、喉を潤す黄金色。ビールのおいしさを古代エジプト人も知っていた。むしろ大げさにいえば、現代人がビールを楽しめるのは彼らのおかげだ。
 展示番号百十四の「醸造所の模型」(紀元前一九八〇〜同一七六〇年ごろ)には、ビール造りの様子が残されている。六人の男性が麦袋を開け、つぼを持ち、パンを焼いている。現代につながるビール造りの基本工程は、四千年以上前の古王国時代に確立されていた。
 「常温の大気開放下で、しかも簡素な器具。品質の安定したビールを失敗なく造る技術を、想定を超える知恵と工夫により確立したことに驚いた」。約二十年前に古代ビール復元に取り組んだキリンビール元技術者、米沢俊彦さん(68)=山梨県北杜市=は振り返る。
 通説は「パンを水に浸して放置したら自然発酵してビールができた」。だが、八十回に及んだ再現試験は全て失敗。先輩の石田秀人さん(故人)を中心に、吉村作治早大教授(当時)の協力で墳墓の壁画を手掛かりに製造方法を調べた。
 鍵は当時の主食でもあった酸味の強いパンの利用。パンを焼くことで乳酸菌は死滅するが乳酸はそのまま残る。他の雑菌を抑え、酵母によるアルコール発酵が促進した。酵母や微生物の存在が知られるはるか前、「実験と観察の成果を正確に記録に残した科学者魂」に敬意すら覚えた。
 復元されたビールは泡が立たず、アルコール度数は10%程度で酸味が強く白ワインに近い味わい。また、全く異なる製法のヨーグルトのような舌触りのビールがあったことも解き明かした。当時は単なる嗜好(しこう)品ではなく、健康維持には欠かせない「栄養ドリンク」のような存在。米沢さんの言葉を借りれば、「人類の健康に大きく貢献する食品史上の一大発明」だった。

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